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着信の音に恭司を押し退け、サイドテーブルに置いた携帯電話を取ろうとした。
「あっ」
一瞬早く伸びてきた浅黒い手が、先に携帯電話を掴み上げて開く。
「ちょ…俺の携帯っ…」
近頃流行りのテンポのいい着信音を響かせる携帯電話を取り返そうと腕を伸ばすが、するりとその手を避けてベッドから降りてしまう。
「恭司!!いい加減にしろよ!」
発信者の名前を表示する画面を一瞥すると、やっと圭吾の方へと携帯を返した。
戻ってきた途端、着信音はぷつりと切れ、部屋には沈黙が舞い降りる。
着信ありの表示を残した携帯電話を握り締め、何事もなかったかのように煙草を吹かし始めた恭司を睨み付けた。
「悪かったよ」
そう言葉を返してくるが悪びれた様子はない。
圭吾はむっとした顔で何か言いたそうにしていたが、着信を残した相手の名前を見た途端、慌ててベッドルームからキッチンへと移動する。
発信を押し、携帯電話を耳に押し当てた。
「姉さん、ごめん。出れなくて……何か用かな?」
久しぶりに聞くその声に、安堵と懐かしさと嫉妬を滲ませて問い掛けると、嬉しそうに弾んだ声に元気にしているかどうかを問い掛けられて、圭吾は罪悪感を感じながら姉の本題を促した。
「あのね、またうちに遊びに来ない?去年から会えてないし…久しぶりに顔見せてよ」
「…え…うん」
返事に戸惑い、テーブルの上の雑誌を意味もなく捲る。
山岳特集と書かれた文字に惹かれてつい購入したそれを、断る言葉を探しながら眺めていく。
「…うん?うん、あの……店も忙しいし、その、あんまり行くと義兄さんにも悪いし」
「秋良さん、楽しみにしてくれてるし…駄目?」
「義兄さんが?」
駄目かどうか問われれば、姉に会いに行くのに何の問題もない。
けれどアキヨシの名前を聞き、悪寒にも似た緊張感に襲われて口を閉ざした。
「行けばいいじゃないか」
ひょい…と携帯電話を取り上げられて慌てて後ろを向くと、携帯電話を耳に当てる恭司の姿が目に入る。
「俺の携帯!返せよっ」
取り戻そうと手を伸ばすが、あっさりと腕を掴まれてテーブルに縫い付けられてしまう
「お久しぶりです、そうです。谷です、ええ。店はなんとでもなります、え?いいんですか?僕も呼んでいただいて、是非行かせてもらいます。楽しみだなぁ」
圭吾に代わりますね、と告げて携帯電話を持ち主に返す。
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