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 駅前のケーキ屋から小さな箱を持って出てきた圭吾の腕を掴む。 「あっ」  咄嗟に自分を振り返った圭吾の表情に驚愕と戸惑いを見付け、恭司は眉根を寄せた。 「なん…なんでここに?」 「なに?俺に会ったらまずいの?」  おろ…と答えるのに躊躇を見せた圭吾の腕を力任せに引っ張る。  その衝撃で、手に持っていたケーキの箱が地面へと転がった。 「あっ…」  手を振り払おうとしながらも箱に気をやる圭吾にまた腹が立ち、恭司は握り締めた手に更に力を込める。 「い…っ!?放せっ」 「あれ、誰と食べるの?」  じたばたともがく圭吾にそう問いかけながら、道に落ちたケーキの箱を見る。  ケーキが二つも入れば一杯になりそうなその箱は、薄い水色のリボンで飾り立てられていた。 「どこ…行く気だったんだ?」  問い掛けはすがり付くような響きを含み、圭吾を苛つかせた。 「放せ…」 「誰のところに…行く気なんだ?」 「うるっせぇ!放せっつってんだ!!」  怒りを露にして怒鳴りながら腕を振り払うと、男二人のいさかいに行き交う人々がちらりと好奇の視線を投げ掛けてくる。  それを居心地悪く感じて、圭吾は片手に持っていた袋を恭司の胸元に投げ付けた。 「家に帰るつもりだったよ。誕生日おめでと」 「…」  ぽとんと足元に落ちた包みに目をやる。 『Happy Birthday』  と書かれたメッセージカードを目にして初めて、恭司は今日がなんの日であるかを悟って戸惑う。 「…あっ」 「ほらよ。食えないかもしれねぇけど……ケーキが入ってるから」  拾って手渡されたケーキのリボンは、地面に触れたせいか黒い汚れがついてしまっている。  ちらりと一度恭司を見上げると、圭吾は固い表情のまま雑踏の方へと歩き出した。

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