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ああ、またこのパターンか…と胸中で呟きながら、圭吾は目の前のチーズケーキにフォークを突き立てる。
ケーキが届くまでに4本の煙草を吸い終えた目の前の男を睨み付け、
「煙てぇ…」
「気のせいだ」
「うるせぇ、公害」
そう言ってパクリとケーキを頬張り、テーブルの上に置かれた男の名刺に視線を投げた。
「探偵…ね」
胡散臭げな男である誠介を胡乱に見やる。
「まぁ…名ばかりだけどな」
「…で、そのハリボテの探偵が何の用なんだ?…………っ…親父がなんか…」
「いやいや、違う」
5本目の煙草に火をつけた誠介の胸ぐらを掴み上げ様としたが、さらりとかわされてしまう。
「なぁんで、義兄とホテルのカメラになんて映ってたの?」
誠介のくわえた煙草の先が赤く染まるのを見ながら、圭吾はそろりと口を開いた。
「……姉さんの…結婚相手を困らせたくて、中が見たいって…」
「これ、日付が見合い前なんだけど?」
「…だ、だいぶ前から話は出てたから……」
「勘当された君が、知らされてたの?」
「姉から…聞いて…」
一つずつ、歯切れ悪く答えていくが、じっとりと握り締めた拳の中に汗が滲むのを止められず、小刻みに震え始めた。
「お義兄さん、凄く嬉しそうに手を引っ張ってるよね」
「それ…っそれは……そう…見えるだけで…」
「もう一枚あるよ?部屋に入る直前、君達はナニしてた?」
意地悪げに片眉を上げて問い掛けてくる誠介に圭吾は何も返事をする事が出来ず、黙ってフォークの刺さったケーキを見詰める。
視界の端をひらひらと目障りに動く写真に、苛立ちを覚えながらテーブルに両手を降り下ろす。
どん!と言う音に店内客の視線が一瞬こちらを向いた。
「な…にが、望みだ?」
コーヒーで湿らせたはずの喉が乾き、圭吾の声はひしゃげてどもるようにくぐもっていた。
「望み?」
繰り返す誠介に向かい、なんの躊躇いもなく頭を下げてテーブルへと擦り付ける。
「もう終わった事なんだ!俺…っ俺が…出来る事ならなんだって、するから……ぉ、お願い…、です…内緒に」
「……」
「姉さん達の生活を狂わしたくないんだ…、頼むっ……金が要るなら払う!だからっ!!だから…」
顔を歪め、頭を擦り付ける圭吾に誠介は更に問い掛ける。
「金以外が欲しいって言ったら?」
「………え…?」
吸い終わった煙草を灰皿へと押し付け、わざとらしく大袈裟に紫煙を吐く。
「ナニ、難しいコトじゃない」
「……」
「出来るだろ?」
「…………」
「俺の上で腰振るくらい」
にやにやと笑う相手に水をかけてやりたい気分のまま、圭吾は歯を食いしばるようにして頷いた。
「…あんたが……黙っててくれるなら」
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