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『…これ』  尻のポケットから薄茶の財布を出すと、小銭入れの中から紙のお守りを取り出した。  それを開いて、中から銀色に光る輪をつまみ上げる。 『あんたなら捨てられるだろ?』  テーブルの上に置かれた煙草の箱の上に、羽根を置くようにそっと置き、一度緩く瞼を閉じた。 『女々しい……とは思うんだけどさ。…性懲りもなく持ってるなんて』 『……』 『それでも…やっぱり、姉さんに幸せになって欲しいから。捨ててくれよ』  姉の幸せそうなウエディングドレス姿を思い出しながら目を開ける。  あの晴れやかな笑顔を、圭吾は曇らせたくなんかなかった。 『それでいいのか?』 『あ?』 『我慢なんて…続くもんじゃねぇぞ』  そう言って煙草臭い溜め息を吐く誠介に、圭吾はもう一度盛大な苦笑を向けた。 「ったく。何がしたかったんだ…あのおっさん」  指輪の無くなった財布に触れながらほぅ…と息を吐く。  日が暮れて、吐く息に白いものが見えたような気がしてぶるりと肩を震わせた。 「…」  温まりたい…と呟く。  真冬の様に骨に染みる寒さではなかったが、心の隙間に入り込むようなじっとりとした寒さに、恭司に対する怒りの気持ちが磨り減っていく。 「………ケーキ、買って帰るかぁ」  磨り減った分の心を何かで埋めたくて、圭吾は自分を励ますように声に出してから歩き出した。

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