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 木製のベルを鳴らしながら店の扉を開けてカウンターの中を見ると、何時も以上に垂れ目を下げた恭司がヘラヘラと気のない笑いを浮かべていた。  奥にいたアルバイトが、すがるような目で自分を見ているのに気がつき、圭吾は視線で「任せろ」と応えて恭司に近付いた。 「恭司」  いつもならベルが鳴ったら真っ先に声をかけてくる恭司だったが、圭吾が入って来たのにも気付かない程ぼんやりとしていた。 「…………ケイ…」  真正面に立って初めて、恭司は虚ろだった視線を定めて目を瞬く。 「あの……昼間……」  しどろもどろの言葉の続きを、圭吾は無言の圧力で押し止める。  そしてカウンター席に腰を掛けると、グラスを二つ出すようにぶっきらぼうに告げた。 「ワイングラスな」  むっつりとした表情のまま言い、恭司が慌てふためきながらグラスを用意する間に袋からワインボトルを取り出してカウンターへと置く。  やや古びたラベルに恭司が目を向けていると、慣れた手付きでオープナーを使う圭吾がぼそりと呟いた。 「探し回ってて…遅くなった。まだ今日だからいいだろ」  ラベルに書かれた四つの数字は恭司が生まれた年の物だった。 「乾杯しよう」  そう言って微笑み、恭司が用意した二つのグラスにワインを注いだ。  クリスタルガラスが紅く染まっていくのを見て、恭司の目が瞬く。 「あの…」 「水に流してやる」  つん…とそう言うと、傷跡のある左手が片方のグラスを持ち上げた。  ガラス越しに紅い色が揺れるのをボンヤリと見ていた恭司が、はっとなって残されたグラスを持ち上げる。 「おめでとう……来年は、ちゃんと祝おうな」  カチン…と小さなガラスのぶつかる音が響く頃には、店の中の客が口々に「おめでとう!」と祝いの言葉を述べていた。

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