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圭吾の自身に対する気持ちにどこか胡乱な所があるのは感じ取ってはいた恭司だったが、ああもありありと他の男が圭吾の中に居座り続けると知って穏やかで居られる様な人間ではない。
「何とかこれで隠れるかなぁ…」
「見せてみて」
首元を気にする圭吾の傍に寄り、マークが見えてないか確認するふりをして首元にさっと口付ける。
「あっ」
圭吾がその髪を掴んで引き剥がした時には、きゅっと吸い付く感覚が肌の上を這った。
驚きと怒りで赤く染まっていく首筋にまた一つ小さな花びらが散る。
「お…おま…っ!!」
「うん。綺麗についた」
「ふざけんな!さっきから俺が何してたか分かってんのか!?」
「分かってるよ」
肩を突き飛ばされ、僅かによろけながら恭司が薄く微笑む。
「隠させやしない」
「……」
「ケイが俺のだって証拠だから」
「…何言ってんだよ……俺は、恭司の…」
続きを言おうと口を開きかけて圭吾の動きが止まった。
「馬鹿らしい…」
「馬鹿らしいってなんだっ?ぜんぜん馬鹿らしい事なんかじゃないだろ!?」
「…考えすぎなんだよ、恭司は。俺は…」
唇を湿らせた圭吾が言葉を続ける。
「俺は、お前の恋人だろ?」
真っ直ぐに自分を見る圭吾の瞳を見つめ、どこまでが真実なのか推し量ろうとして肩を落とした。
恋人なのには変わりないだろう。
…けれど、その心の中にいるのが恋人であるとは限らない。
恭司はそれを痛感しながら首を振る。
「ごめん。やり過ぎた」
「………もう少し、待っててくれ」
そう告げると、圭吾は部屋へとまた戻っていった。
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