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「あぁっ!もう!」
ハイネックの服を脱ぎ、気に入りのシャツを着る。胸元の開いたそれは首筋につけられたキスマークを隠す事は一切できないものだった。
故に引き出しからショールを取り出して巻きつける。
気候的には暑そうに見えたが、おしゃれだと言えばぎりぎりしていてもおかしくはない。
「ったく…」
一人毒づきながら鏡をチェックし、ふと手を止めた。
首元に散らばるキスマーク、それをショールで隠すその行為。
数ヶ月前の秋良との最後のやり取りを思い出し、はっとなって引き出しの奥を探る。
淡い緑色の、姉らしい趣味のそのショールを借りたままだった事を思い出した。
姉はきっと、急になくなったショールの事を不思議に思ったに違いない…と思い、申し訳なさに肩を落とす。
そこそこの会社の社長令嬢と言う立場ながら、その恵まれている環境の人間にしては小夜子は一つの物を長く大事に使う性質だった。圭吾が握り締めているショール一つをとっても、愛用している品に違いないなかっただろう。
「…もう、新しい物、買ったかな」
姉の物を勝手に持ち出した罪悪感を感じ、圭吾はそれを畳んで鞄の中へと忍ばせた。
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