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「帰るっ!!」
逃げるその細い体を掴み、恭司は無理矢理圭吾をエレベーターへと連れ込んだ。
「っ!や…駄目だ!俺…っ」
「どうして駄目なんだ?」
「ぁ…っ……それは…」
恭司の胸板を押し返していた手の力を緩めながら俯く。
きちんとした形で以前の恋人が秋良だった事を話した事のなかった圭吾は、恭司がそれを知っていると感じてはいたものの、はっきりと告げるのに抵抗があった。
そんな圭吾の気持ちを見透かすように、恭司は続ける。
「なぁ。圭吾の今の恋人は俺だよな?」
「…そう、だよ…」
「じゃあ、他の奴の事なんかどうでもいいだろ?」
「…」
「今、俺と恋人同士なんだから、他の奴に気持ちがないって…証明してくれるよな?」
恭司を見上げる圭吾の目がゆらりと揺れる。
「それとも、向こうに気持ちがある?」
「…ある訳……ないだろ…」
「ケイより女を選んだ奴なんかに、気持ちなんかないだろ!」
「………」
詰問調になってきている恭司の言葉に笑い返そうとして失敗した。
秋良は男より女を選んだのではなく、圭吾が秋良に姉を選ばせた。
圭吾の願いだったからこそ、秋良は小夜子と今も暮らしているのだ。
小夜子が圭吾の姉ではなく、ただの女ならば…秋良は圭吾の元を去る事などなかった。
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