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自分が願った…
その結果、姉の幸せを守れた事を、後悔している自分が居る事にあえて気づかない振りをしてきた。
「…俺の気持ちは……」
言い淀みそうになる言葉尻を消したくて恭司が圭吾の唇を塞ぐ。
「行こう」
軽い振動を伝えて目的の階に止まったエレベーターから圭吾の手を引いて降りる。
「何号室だっけ?」
「……」
唇を引き結んだまま小さなビオラの鉢植えが置かれた扉を指差し、握られたままの恭司の手を振りほどこうとした。
「…離せよ」
「このままで」
「…ふざけんなって…」
「不都合がある?」
「人の家に行くのに、手を繋いでなんか行かないだろ!?」
そう怒鳴りつけて手を振り払うと、大股に扉へと寄ってチャイムを押した。
扉を隔てて人の気配がした瞬間、恭司が再び圭吾の手を取って指を絡めてくる。
「ちょ…っ」
カチャ…
相変わらずの生真面目そうな秋良の顔が開いた扉から覗いた。
「…い………」
明らかに作り物と分かる笑顔が、繋がれた二人の手を見て固まり、奥歯を噛み締めたのかこめかみの辺りがきゅっと動く。
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