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 ケーキを冷蔵庫に入れる。  ただそれだけの行為が嬉しかった。  扉を開けた瞬間に目に飛び込んできた二人の仲睦まじい姿に隠しきれない動揺を感じていた秋良は、それを治める為の時間を欲していた。  圭吾が望み、その望みの為にここに居る。  けれど、圭吾の隣に恭司がいる事が許せなかった。  圭吾の傍らと言う場に立つ。  それをあっさりと叶えた恭司が憎くて仕方がなかった。  薄緑のリボンを意味もなくこねくり回しながら、秋良はともすれば力を込めそうになる拳を緩めるのに必死だった。 「秋良さん?」  軽く尋ねかける様な呼び方に肩を揺らす。 「…ん?」  小夜子とは違う名前を呼びそうになりながら振り返る。 「お茶出しますから、向こうに」  指で示された先には、出会った時の様に茶色い髪をした圭吾がソファーに座り、隣に座る恭司と何事かを話していた。  恭司が何か冗談を言ったのか、ぷぅっと頬を膨らませた圭吾が軽く拳で恭司の肩を叩く。  そんな二人の傍に行けと言われ、秋良は反射的に首を振る。 「何か…手伝いをしようと思って…」 「じゃあ、接客をお願いしますね」  にっこりとそう言われ、秋良は小夜子に気づかれないように肩を落とした。

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