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「いや、他に…」 「こちらは大丈夫です。弟もいるとは言え、お客様だけを放り出しておく訳にはいきません」  茶目っ気を含んだ表情でびしりと言われ、仕方なくぐずぐずとした足取りでリビングへと向かい、二人の向かいに腰を下ろす。 「…」 「…」  何事かを喋り、ふざけ合っていた二人に沈黙が降りた。 「ぁー…元気だった?」 「…はい。義兄さんもお元気そうですね」 「うん…」 「…」 「…」  会話は続かず、男三人は顔を付き合わせて沈黙したまま見詰め合う奇妙な空間が出来た。 「圭吾、部屋の中寒い?」  その沈黙を破って小夜子がお茶を運んでくる。 「え?いや、寒くないけど…」 「ショール暑くないの?外したら?」  三人の前に紅茶を出しながら不思議そうに問いかけられ、圭吾は返事に詰まって恭司を盗み見た。 「…風邪、ひきかけているんです。ひき始めに喉を冷やすと長引くって言うでしょう?」 「まぁ、初めて聞きました!喉を温めればいいんですね?…やっぱりショール買いに行こうかしら…」  ぽそりと言われた言葉に圭吾は息を詰める。 「あの…姉さん」 「なぁに?…あ、お茶冷めないうちに飲んでね」  砂糖やミルクを恭司に勧めている姉の前に、折り畳んだ薄緑のショールを差し出す。  小夜子は最初それが何なのか分からなかったのか、軽く首を傾げてからぱっと顔を輝かせた。 「あら?」 「ごめん。それ、俺がずっと持ってたんだ」 「え?」  事情が飲み込めずに首を傾げる。  出したはいいものの、それを自分が持っている事をどう説明しようかと圭吾の眉尻が下がる。

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