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ふぅ…と息を吐き、コンロの前に立つ。
結婚前はまともに台所に立つ事すらさせて貰えなかった姉が、今このキッチンを使っているのだと思うと不思議になって辺りを見渡した。
使っていない綺麗さではなく、使い込まれた綺麗さのある清潔なキッチンは、小夜子がどれだけ毎日きちんと家事をこなしているかが分かる。
今日並んだ手料理の数々を見ても、小夜子の今の生活が満ち足りているものだと告げるには十分だった。
それらを見て、寂寥感に唇を噛む。
小夜子の幸せを一番に願っていた。
それは間違いのない事だったが、自分の立ち位置がこんな場所になるとは思ってもみなかった。
姉に幸せになって欲しい…
政略とは言え結婚したのだから、相手と思いを通じ合わせて仲睦まじく、自分には持てない家族を持って欲しい。
そう願っていた。
それが、こんな形で叶えられるなんて…
深呼吸を一つし、圭吾はスープを皿に入れてリビングへと向かう。
「……お子さんの予定はないんですか?」
きゅっと詰まった様な胸の痛みに圭吾が立ちすくむ。
「授かりものだから…」
そう照れた様に笑う小夜子の姿が一瞬にして涙で滲んだ。
健全な夫婦ならば然るべき事柄のその会話が圭吾の胸を抉る。姉の幸せを望むならば、いつかはそこに行き着く筈だった。
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