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「……っ」
床が抜けて落ちて行くような感覚に、圭吾は思わず傍の壁に縋り付く。
カシャン…
水音と共に、床の上でスープ皿がくるりと転がった。
「圭吾!?」
「あ…っつ…」
「どうした?」
「やだ…っ早く冷やして!」
腹部から太腿に掛けて走る鋭い痛みに顔をしかめる。
悪寒にも似た震えが背筋を駆け上がり、持っていたスープを落としたのだと言う事に気づくのに時間がかかった。
「こっちに来るんだ!」
じわりと広がる痛みに立ち竦んでいると、秋良の腕が圭吾を引っ張る。呆然としたままの圭吾を連れて風呂場へと向かうと、スープの掛かった部分に向けて冷たいシャワーを掛け始めた。
「わっ…つめ…」
「我慢して」
火傷をしているかもしれないと言う心配よりも、他人の家の浴室で服を着たまま冷たいシャワーを掛けられていると言う事に呆然とし、圭吾は濡らされていく自分の体を見守った。
「ここだけ?手は?」
「え?…ああ、えっと…平気…です」
眉間に深く皺を寄せながら圭吾に水を掛ける秋良の目の奥がゆらりと揺れる。
「…無事で……良かった」
切なそうに微笑み、シャワーの冷たさに色を失いつつある圭吾の唇に手を伸ばす。
そ…と触れた熱い指先に、圭吾の体が跳ね上がった。
「…っ」
なぞる指先を追いかける様にゆっくりと首を傾げる。
「……――――」
ざぁざぁと騒がしいシャワーの音に消え入る程の小ささで圭吾が問う様に囁く。
「うん?」
軽く眉を上げて返事をする秋良は、くすぐったそうに…けれど嬉しそうに微笑んでいた。圭吾が応えようとして口を開きかけた時、浴室のガラスドアに人影が映った。
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