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「私の勘違いね、ごめんなさい。ケーキ持ってきますね」
立ち上がった小夜子に恭司が声を掛ける。
「指輪って、あれですよね、シリアルナンバーが入ってた指輪の事ですよね」
「ナンバー?」
足を止めて振り返る小夜子に恭司は尋ねかける。
「ご存じなかったんですか?」
「え…ええ」
「恭司、俺、ケーキが食べたいんだけど」
そう言って遮ろうとする圭吾を抑えて尚も続ける。
「同じナンバーが刻まれてるのはペアの指輪だけって言うふれ込みで人気があった物ですよ」
「同じ…ナンバー…?」
キッチンへ向かう様子をすっかり無くした小夜子が尋ね返す。
「そうです」
「指輪なんか…興味ないって言ってたじゃねぇか」
「ケイが一時、欲しがってたから調べたんだよ。一応俺だって譲歩しようかと思うし…」
「それっ…」
二人の言葉を遮り、小夜子が声を上げる。
「それは…ナンバーが同じだと、ペアリングって事に…」
「ええ。恋人同士の為に作られた物ですから。同じ物は他に二つとないです」
かちかち…と小夜子の奥歯が震えた気がした圭吾は、恭司の腕をぐいっと引っ張って睨みつけた。
猫の様なきつい印象の瞳を更に険しくさせると、恭司に黙る様に視線で訴える。
「………圭吾のしてたのにも、ナンバーが入ってたの?」
「ないよ…っ」
「入ってますよ」
圭吾の睨みを物ともせず、恭司はさらりと流して小夜子に告げて笑う。
「圭吾の物にも、ナンバー、入ってます」
「おま…っ、もういいだろ!?もう持ってないんだし…」
笑みを崩さないまま、恭司の笑ってはいない目が圭吾を見詰める。
「本当に?」
――――カチャン…
「捨てたよ!指輪なんかっ」
怒鳴り上げる圭吾の言葉に重なるように、ビニール袋の擦れる音がリビングに届いた。
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