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 男三人の雰囲気に、小夜子は困った様な曖昧な笑みを見せて問いかけた。 「…用事!」 「え?何?」  弟の突然の言葉に驚く小夜子に、圭吾は早口で告げた。 「恭司が用事あるの忘れてたって言い出して!」 「そうなんですか?」  ぎゅっとテーブルの下で圭吾が恭司の足を踏みつけ、有無を言わせない雰囲気を作り出す。 「…え、ええ…うっかりしていたんです」 「だから、今日はちょっと帰るよ!」  圭吾のその細い腕のどこにそんな力があるのか、恭司の襟首を掴んでぐいっと立ち上がらせる。 「え…せめてケーキ食べて行けばいいのに…」 「姉さんが食べて!時間がないから!ごめんね!」  荷物を掴み、蹴り出す様に恭司を玄関へと連れて行こうとする圭吾の腕を、秋良が掴む。 「……」  何か言いた気に秋良の唇が開きかけるのを見て、圭吾がさっと小さく首を振った。  その小さな動きを見て取った秋良が軽く目を見張った瞬間、恭司の手が伸びて秋良を押し退ける。 「すみません、急いでるんで放して貰えますか?」 「……圭吾…君……また、おいで」   二の腕を掴んでいた手が、名残惜しげにそろり…と放される。  圭吾は放されて行く手を見詰めながらきつく掴まれた腕を摩り、無言のまま深く頭を下げてその脇を通り抜けて玄関へと駆け出す。 「姉さん、ホントごめんね」 「用があるなら仕方ないわよ、また来てね」   そう言い、見送りに出ようとする姉を押し留めて恭司を連れて玄関を飛び出した。 「……」 「引っ張らなくても歩けるよ」 「……」 「歩けるって」  恭司の言葉が聞こえないかの様に、圭吾はその手を放さないままエレベーター前へと走り、拳を叩きつけて下へのボタンを押した。 「……いったい……っ一体!何がしたいんだよっ!!」  ふる…と怒りで肩を震わせ、恭司の方ではなくエレベーターの扉を見ながら怒鳴りつける。 「俺は…久し振りに姉さんに会って、嬉しかったのにっ」 「あいつに会えての間違いだろ?」 「っ!?」  感情の篭らない恭司の言葉に振り向くと、驚く程近くに恭司の眼差しがあって思わず立ち竦む。 「義兄さんに会えて…なんで喜ばないといけないんだよ…」  しっかりその双眸を睨み返して答えたが、言葉尻が震えるのは隠せなかった。 「あいつの態度だって、まだケイの事諦めてないって態度じゃないか」 「っ!」  圭吾の手が恭司を突き飛ばす。 「いい加減にしてくれっ!そんな訳あるか!…あいつは……姉さんと幸せにやってるんだからっ」  よろめいて壁に手をつきながら恭司が自嘲気味な笑みを漏らす。 「どうだか…」  たっぷりと言外に何かを含めた一言を呟き、恭司はエレベーターへと乗り込んだ。

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