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「愛しています」
するりと小夜子の唇から零れ落ちる。
中から溢れるように出たその言葉に、秋良は一瞬はっとしたような表情を見せた後、小夜子の愛してやまない柔らかな微笑を浮かべた。
「ありがとう」
嬉しげに返された言葉に小夜子はほぅ…と息を吐き、小さな微笑を返す。
「…秋良さん」
「どうしたんだい?今日はなんだか様子が…」
「言ってくれないんですか?」
え?と、書類を繰っていた手を止める。
「『愛してる』って」
ぱさぱさ…と手の中の書類が絨毯の上に零れ、それを小夜子の視線が追いかけていく。
「キス、してください」
唇を強く引く結んだ小夜子が秋良を見上げて背筋を伸ばす。
「………」
「………」
時間にしたら数秒もないその一瞬が過ぎ、滑らかな曲線を作る小夜子の頬に秋良がそっと触れた。
両手で頬を包み込み、薄氷で出来た花に触れるかのように唇を落とす。
ふわりと、互いの柔らかな唇の頂が微かに触れる。
「…小夜子、何かあったのか?」
ひんやりとした頬に体温が移らぬ内に、秋良は手を放して肩をすくめた。
「何かあったなら…聞かせてくれないかな?」
「……」
こちらを覗き込む秋良の瞳から視線を逸らしながら、小夜子ははにかんでみせる。
「少し…寂しかっただけです」
「そう?」
確認するかのように首を傾げる秋良に向かい、小夜子は小さく首を振った。
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