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泣きそうになりながら、小さく震えて…
その力が思いの丈を言外に語る。
「………俺が…追い詰め……ちゃったのかなぁ…」
自身の心の中に誰が居るのか、自分が誰を見ているのか、圭吾自身が一番良く分かっていた。
どうしても拭えない位置に居る秋良の事を。
それでも、体を繋げ続ければ、いつかは薄らいでその場所に秋良ではなく恭司が居てくれるようになると信じていた。
けれど結果、繋げ続ければ繋げ続ける程、恭司では埋める事が出来ないと、その場所に居る人間の代わりになど出来ないと、本人だけでなく恭司にもその事を知らしめるに至った。
『ここから出るな』
出ようとすれば出る事の出来る部屋の中へ閉じ込め、恭司はそう言った。
出ようとすれば出れる場所に留まる…その相手に委ねる形の気持ちの試し方に、圭吾は雁字搦めになっていた。
「…きょう…じ……」
圭吾に向けての気持ちがないのであれば、あっさりとここから出て行く事も出来た。
気持ちが冷めたと言われたならば、荷物を纏めてぱっと飛び出せる。
今まで付き合ってきたいずれの恋人ともそうだった。
けれど…
けれど…である。
「愛している」と恭司は言う。
ぎゅっと拳を作ると、二の腕が鈍く痛んだ。
きつくきつく、恭司が掴んだ所が痛んだ。
圭吾を離したくないと叫ぶ恭司の腕を、圭吾は振り払う事ができなかった。
「……」
数日、履く事がなかった靴を見やる。
ぱた…ぱた…と廊下のフローリングに涙が落ちた。
「…っ……」
泣き崩れて涙の跡に膝を突く。
絡み付いた情が、重苦しい程圭吾へと圧し掛かった。
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