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仕事から帰った恭司が、圭吾に携帯電話を返す。
「お姉さんから、着信が何件かあったよ」
返された携帯電話を受け取り、開くと姉の名前と6件の不在着信が残っていた。
「掛け直す?」
そう問われて圭吾は緩く首を振った。
幾つもの着信を残す程の内容を、恭司に聞かれながらしたくはなかった。
小夜子には申し訳なかったが、着信通知を全て消すと携帯電話を恭司へと返す。
「どこかに電話、掛けなくていいの?」
「…あぁ」
時折連絡を取り合っていた友人達は怪訝に思うかもしれなかったが、喧嘩の原因になり得る事柄はできるだけ避けたかった。
間違い電話がかかってきた。
宣伝メールが入ってきた。
友人から何気ないメールが入った。
ただそれだけで言い争いになる生活は圭吾の神経を消耗させていた。
「今日は?何してたの?」
「…する事なんか、なぁんもねぇよ…」
そう返し、キッチンを抜けてリビングへと向かう。黒い人工革のソファーにくたりと体を預けると、追いかける様に恭司が来て隣に腰を下ろした。
「する?」
膝を撫でる手が太腿へと這い上がる。それを不快に思い、「あとで」と言いそうになった口を噛んだ。
「……」
圭吾は唇を閉ざしたまま足を上げ、片足をソファーの背もたれ、もう片方を恭司の肩へと乗せる。その行動が示す肯定に薄く笑みを作ると、恭司は圭吾の部屋着のズボンを引き摺り下ろし、その股間へと顔を埋めた。
ペチャ…
下腹部で水音を立てながら上下する頭を見やりながら、泣きそうになって顔を覆った。
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