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 いつの間にか、家の中の雰囲気がひんやりとしている。  自分の気のせいかと思いかけ、いや…と考え直して秋良は空の花瓶を眺めた。  いつもそこに活けられていた季節の色とりどりの花が消えていた。  体にいいからと常につけられていた空気清浄器は電源が落とされ、毎日手入れされていた観葉植物は水を欲しがりながら今にも息絶えそうだった。秋良が家にいる間は灯されていた廊下の電気も、点けられなくなって久しい。  ひんやりとしているのではなく殺伐としたその雰囲気に、苦い思いを噛みしめながらキッチンの方へと振り返った。 「………今日も、早く帰るから」  返事はなく、ただ微かに茶色い髪が揺れただけだった。 「…………いってきます…」  以前は玄関の外まで、毎日必ず見送りに出ていた小夜子だったが、あの日以来秋良が出勤の際に立ち上がる事はなかった。ただ秋良も、それに何を言うでもなく玄関から一言二言声を掛けてから家を出た。  パタンと言う玄関の閉まる音を聞き、小夜子は日課の様になった行動を繰り返す。  携帯電話を開け、弟の携帯番号に電話を掛ける。 「……………」  かさつき、ひび割れた唇を真一文字に引き結び、無心で呼び出し音を聞き続ける。  やがて留守番電話サービスに切り替わり、小夜子は耳から電話を話してほっと息を吐き出した。  安堵なのか、悔しさなのか分からないまま携帯電話を閉じて立ち上がろうとして失敗した。 「あっ…」  回った視界が元に戻るまできつく目を瞑り、衝撃で切れた唇を噛み締める。  元々細い体がここ数日の食欲不振から更に削られ、まるで病人の様だった。

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