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二人で公園のベンチに腰掛ける。
どちらともなく手を繋いでいると、目の前をゴールデンレトリーバーを散歩させる青年や学校帰りの学生らしい一団が通り過ぎていくのが見えた。
「…………じゃあ…俺、行くよ」
人の波が途切れ、静寂が戻った時に圭吾はそう切り出した。
アーモンド型の形の良い目を細め、眩しそうに空を見上げる。
「……」
「すっげぇ…嬉しかった…なんて言っちゃ、まずいんだろうけどさ。俺、やっぱりアキヨシの事忘れられねぇ。だから、もう会わない。これで、さよならにしよう」
立ち上がる圭吾の手首を、秋良が捕まえる。
「嫌だ」
「……我がまま、言うなよ」
真面目な黒い瞳に直向に見詰められ、居心地悪そうに視線を逸らせると、圭吾は腕を振り払おうと手に力を込めた。
「離さない。ずっと一緒にいよう」
「…俺は…恭司のところに……もど…」
あそこに戻る事は出来ないと分かってはいたけれど、秋良を引き離すために圭吾の口からそう言葉が出る。
「駄目だ」
グイッと腕を引っ張られ、圭吾は顔をしかめた。
「圭吾にこんな事をする奴のところになんか、帰さない」
「な…に、馬鹿な事…」
「体の痣に…気付かないほど馬鹿じゃない…あいつに、何をされてた?」
「それ…は………か、関係な……っ」
震える唇では上手く言葉を紡げず、出そうとした言葉は霧散する。
「関係ないなんて言わないでくれ!……頼む。俺の知らない所で傷つかないでくれ。……なぁ、もう…無理だ……圭吾が何を感じてるのか分からない生活も、圭吾に何が起こったのかわからない生活も………っ…圭吾が傍にいないなんて……っそんな生活、もう…っ」
男らしい骨ばった手が圭吾の腰を掴み、縋り付きながら言葉を搾り出した。
「俺はっ…苦しくて、苦しくてっ…圭吾が他の誰かに微笑みかけてるなんてっ、もう耐えられないっ」
嗚咽が慟哭に変わり、静かな公園の空気を振るわせる。
「あ…い……っ愛してるっ!!」
抱き締められ、その男らしい匂いが鼻腔を満たすに連れ、圭吾の強張った体から力が抜けていく。
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