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「そうそう。骨折って入院した奴を見舞いに行く時には棒付の飴を持って行こうって言い出したことがあって」
「棒付の…?」
「そう。それが、なんかいろんな奴らが便乗してやり始めて、見舞いには必ずスーパーの袋一杯の飴を持って行ってさ。その骨折った奴が退院する頃にはゴミ袋三つ分になってて…」
看護婦さんに配ったりしたけれど、結局二袋を抱えて退院することになった…と、懐かしそうに笑う。
「…悪質じゃないか?」
「うん。今更だけど、あいつってもしかしたら骨折った奴の事嫌いだったのかな…とか思わなくもない」
苦笑も混じるが、その目の中の光は優しい。
そんな顔をしながら昔話をするのを初めて見たのだと、改めて考えながらその腕の中に擦り寄った。
「圭吾?」
「そんな話…初めて聞いた」
「え?」
「…俺、離れて初めてさ…そう言った話とかしなかったんだなぁって思って」
「……」
「なんにも…知らなかったなって…」
ぽつんと呟く言葉に秋良は愛しさを込めた苦笑で応える。
「これから、いっぱいお互いの事を話し合おうな」
「…うん」
喋れば触れてしまいそうな程の間近で囁き合い、二人はこつりと額を合わせた。
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