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昨夜、結局圭吾に声を掛けなかった秋良は、マットの上で寝たふりをしながら夜を過ごした。
明け方にもそもそと寝床に戻る圭吾にも気が付いていたし、朝日が昇り切ってからわざと今起きたかのような振りをして起こしてきたのにも、熟睡していたような振りをして目を開けた。
「おはよう」
何事もなかったかのような顔でこちらに笑顔を向ける圭吾が堪らなく愛おしく思え、きょとんとこちらを見る圭吾に腕を伸ばした。
華奢な体が腕の中で小さく撓り、苦しげに息を吐き出す音を聞いて秋良は慌てて力を緩めた。
「な、なんだよ…いきなり…」
怒ったような口調だったけれど、どこかくすぐったそうな風に言う。
その目元が赤く色づいているのを見て秋良はまた腕に力を込めた。
「っ!!苦しいって!なんなんだよ!いきなり!」
「…愛してる」
じたばたともがく耳元で真剣に囁かれ、圭吾は電気が走ったようにびくんと身じろぐと、自分を抱き締めるその腕に頭を預ける。
「…っだよ……もう…」
茶色い髪をかき分け、その項にキスを落とす。
「好きで好きで…どうしていいのかわからないんだ…」
絞り出すその言葉に圭吾は小さく苦笑した。
「そうだな。とりあえず……朝飯だ」
「茶化さないでくれ」
「茶化してねぇよ。飯食って、それから…」
自分を抱き締める温もりに寄り添う。
「それから、二人で生活する為の色んなもん、買いに行かないとな」
圭吾は好きだと言って涙を浮かべる秋良にそう微笑みかけた。
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