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「どうした?」 「…いや、お前そんなで仕事ちゃんとできてたのか?」 「は?」  今度は秋良がおにぎりを下ろす番だった。 「藪から棒だな」 「いや…なんかあんまり融通が利かなさそうだからさぁ…」 「仕事とプライベートは違うだろ」 「そうだけど…さ」  やはり真面目に答える秋良に、ますます不安が募る。 「冗談とか…言うの?」 「言うさ。小夜子とは良くそれで笑って…っ」  はっと見開かれた目が、出してはいけない名前を言ってしまったと後悔しているのを物語る。  一年とは言え夫婦として寝食を共にしてきた密接で砕けた関係は、圭吾にはなかった。離れていた間の時間、相手の事、さまざまな事が圭吾の気を塞ぐように圧し掛かった。 「すまない…」 「っ……そうだよな!冗談くらい言うよな」  一拍の沈黙の後、不自然に明るい声で圭吾がそう言った。 「それより家具の…」 「圭吾」  固い声に名前を呼ばれ、圭吾は無理やり作った笑顔を引っ込めてもぞもぞと座り直す。 「すまない」 「……」 「でも、離さない」  腕を取られ、よろけるように秋良の方へと近寄る。 「これから、どんな後悔をさせても泣かせても…俺は圭吾を離す気はないから。ずっと傍に居てくれ」 「…お前は…それでいいの?」  圭吾は掴まれた腕を熱く感じながらも顔を上げる事は出来なかった。  これから確認することに、秋良が少しでも躊躇いを持ったらと言う思いで泣き出しそうになりながらも口を開く。

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