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 二人で新しい部屋を探すと言う事が新鮮で、圭吾は自分が浮足立っているのを分かってはいたがそれを抑え込もうとは思わなかった。  ふわふわとしたくすぐったい胸の内を表すように笑みが零れる。 「二部屋は欲しいよな」  広げたチラシと雑誌を確認する。 「そうだな…仕事が決まってから探してもいいんじゃないか?」  その言葉にチラリ…と圭吾は視線を上げた。  求人誌を捲るその姿に浮かんでいた笑みが消え、表情が曇る。 「その…やっぱり……仕事は…」 「新しいところ見つけるよ」  秋良はそう事もなげに告げて目ぼしい記事に丸を書き加える。 「でも…」  でも…の言葉の続きを言い出せずに唇を噛む。  幾ら興味がないとは言え、父の会社がそこそこの大きさなのを知っている。  成功者として父が築いたソレの価値も分かっているつもりだった。  それを安易に放り出させるのは気が咎めた。

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