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「特に仕事にこだわりはないよ、河原の会社の事も」 「……」 「住みたいところは?」 「…え?」 「この街がいいか?」  問われて首を振る。  慣れ親しんだ街だったけれど、絶対に離れたくないと言う程愛着はない。  それに、ここは小夜子や河原の両親の生活圏内だった。 「あ」 「うん?」  首を傾げる秋良にそろりと告げる。 「山の…ある所がいい」 「山?」 「その、ん…登ってみたいから」  かつて興味がない、と思っていた後ろめたさに頬を掻く。 「俺が前に言っていた事、覚えててくれたんだ」 「いや…ちが……映画見て…興味出ただけだし…」 「うん」  嬉しげに微笑んで圭吾の手を取る。 「じゃあ…静岡かな」 「へ?山梨とかじゃなくてか?」 「静岡」  言い切ってそっと圭吾を抱き寄せた。  その髪から漂う匂いを感じる為に自然と目を閉じて続ける。 「山って言ったら、富士山だろ?登ろうか」 「っ!?、初心者にいきなりハードル高いだろ!?まずハイキングからだって」 「うん」 「うんじゃねぇよっ」  ぷぅっと頬を膨らませて圭吾が小さく呻くと、秋良はその耳元に唇を寄せて「登ろう」と繰り返した。

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