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たった二、三日の事なのに、ずいぶんと荷物の増えてしまった部屋を見渡す。
引っ越しを前提としているので大きな家具こそなかったが、生活に必要なものがどうしても出てきてしまったからだった。
「せめてダンボールでも用意するかぁ?」
ごちゃ…としたその部屋に溜息を吐き、圭吾は出かける支度をしている秋良を振り返る。
「どう思う?」
「そうだな…引っ越しもするし…そうしようか」
形の崩れたシャツの襟元を直すために圭吾が手を伸ばす。
ひんやりとした手が喉を微かに掠めた時、秋良は小さく「キスしていいか?」と尋ねた。
見上げた生真面目なその顔に、苦笑しながら背伸びをして口づける。
「いちいち聞くなよ」
「すまない」
堅苦しい返事にまた笑い、首に腕を絡めて深くその唇を貪る。
どきどきと早い鼓動が触れ合った箇所から聞こえ、圭吾は秋良が緊張していると言う事を改めて痛感した。
「…リラックス、リラックス」
そう言う自身も緊張はしていたが、秋良程じゃないのは分かっていた。
秋良の両親に話をしに行く。
これからの事を考えるとじっとりと掌が汗ばむ。
「な?大丈夫…」
何が大丈夫だとか明確には言えなかったけれど、自分は傍に居るから…と言う気持ちを込めてその唇にちゅっちゅっと吸い付いた。
「ありがとう」
唇を舐める圭吾の舌を舐め返して微笑んだ。
互いにくすくすと笑い合う。
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