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ぴぴ……ぴ…
見つめ合うその雰囲気を壊され、秋良はやや肩を落として着信を告げる携帯電話を拾い上げる。
「っ!!」
さっとその顔を過った緊張に、圭吾はそっとその場を離れるべく後ずさった。
会話を聞かないように台所へと向かうその背中に電話に出る秋良の声と、驚きを含んだ女性の大声が追いすがる。
『秋良!貴方、どうして黙ってたのっ!?』
電話の向こうで余程大声で話しているのかその声は、聞かないようにしていた圭吾の耳にも自然と届いてしまっていた。
「黙ってたって……ワザとじゃないよ。大事な事だったから、今からそっちに行こうと思ってたんだ」
『まぁ!!』とやはりキン…と耳に来る女性のはしゃぎ声が零れてくる。
トーンの落ちた秋良とは逆に、不自然な程明るいその声に圭吾はつい身を乗り出す。
「…うん。…それでなんだけど……」
いつもの生真面目な表情をさらに難くさせ、言葉を探しながら唇を湿らせるためにきゅっと引き結ぶ秋良の姿が見えた。
『オメデタなんですって?』
その甲高い声が、キンキンとした耳鳴りを伴って圭吾の意識に届いた途端、かくりと糸の切れた操り人形のように圭吾の体が傾いだ。
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