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違う…と言う言葉が閊えて喉に張り付く。
そんな筈はないと言うには秋良は正直すぎた。
シーツに残った破瓜の印。
あの時の……
「け…」
言葉が途切れる。
上手く口が動かない。
言い訳も正論も何も浮かばなかった。
謝罪すればいいのかもわからず、秋良は圭吾に向かって手を伸ばす。
「…俺は…なんて言えばいいのかな?」
表情を映さなかった瞳にさっと幕が張る。
水で作られたそれはあっと言う間に膨れ上がり、秋良の指先にぽとりと転がった。
「……」
自分の涙が秋良の指先を濡らしたのを見て、圭吾はそっとそれを包み込むと優しく拭った。
触れ合うと必ずそこにあった温もりは、緊張とショックの為かひんやりとし、圭吾が好んでいた体温は消え失せている。
なくなってしまったそれを取り戻したくて圭吾は秋良の両手を包み込んだ。
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