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『……………』
「ね?」
強く尋ねかけるが、圭吾からの言葉はなかった。
「貴方がいないで…私が幸せに、…なれると思う?」
小さく、苦笑の声。
『姉さんを幸せにするのはあいつの仕事だよ』
「秋良さんもよっ!………あの人も…貴方がいないのに幸せになんかなれない…」
『……………―――――大丈夫』
小夜子がはっとするほどの穏やかな声が耳を打つ。
『姉さんたちは家族だろ?幸せになれるよ』
「…そん…なこと、ない…」
『ごめん。そろそろ搭乗の時間なんだ……行かなくちゃ。…姉さん、幸せに』
「…け…圭吾っ!?どこ行くの!?ねぇ!会いに来てくれるんでしょ!?私、またコロッケ作って待ってるからっ!ねぇっ!」
『ほんと…ごめん』
「圭吾!?いつ戻ってくるの!?ねぇっ!私迎えに行くから!」
小夜子が声を荒げるが、最後にぽつりと『今までありがとう』と言葉が聞こえて通話は途絶えた。
微かな物音もさせなくなったその携帯電話に小夜子の涙が零れ落ちる。
「けい…圭吾………っ」
手の中の携帯電話がぎしりと音を立てる。
まるで小夜子の心の泣き声のように…小さなその悲鳴はか細く上がり続けた。
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