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『公共の場では止めましょう』 「お…おにぃ……」  「お義兄さん」と言いかけた言葉が喉から出てこなかった。  中途半端に呼びかけられて、怪訝な顔でこちらを振り返った佐藤を見上げる。  …変わらない…生真面目な表情。 「っ…あ…アキヨシ!」  いきなり名前を呼び捨てたオレに、佐藤は目を丸くした。 「っお前、ホントに覚えてないのか!?」  どんっと佐藤をエレベータの壁に押し付けた瞬間、エレベーター自体が大きく揺れたのが分かった。  耳一杯に大きな機械音が響いてエレベーターの動きが止まる。 「あっ!?」 「なぁ!オレだよっ!」  まだ分かんないのか?と言う言葉は、こちらを訝しげに見ている表情に掻き消された。  ああ、こいつはオレの事を完全に忘れてしまっているんだなって思った途端、全身がざわざわと総毛立つ。  このまま、忘れられたくない…  このまま、なかった事にされたくない…  突き上げる衝動のままに、オレはその肉厚な唇に食らいついていた。 「っ!?」  微かな制止が聞こえた。  けれど、抵抗のない唇を割って舌を差し込み、その奥にある舌を探し当てた頃にはそんな佐藤の言葉は霧散していた。  べちゃべちゃと、決してロマンチックでもなんでもない厭らしい水音がエレベーターに満ちる。  オレの顎をどちらの物か分からない唾液がだらだら流れてオレの襟元を汚していく。 「ぁ…っん、っ…」  喘ぎながら、壁に張り付いている佐藤の股間を弄る。  男にいきなりキスされて縮まっているかと思ったそこは、こちらが驚くくらいの質量と熱を持っていた。

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