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ふわふわとした微睡みの中、呼ばれて振り返る。
世界で唯一、彼だけが呼ぶ呼び方で…
『おねぇちゃ』
舌足らずなその喋りはまだまだ幼いせいだった。
あとをついて回る年の離れた弟。
『けいちゃん』
呼ぶと、ぱぁっと花が咲いたかのような満面の笑みで駆けてくる。
愛しくて愛しくてたまらない、…大事な弟。
『おねぇちゃ』
まだ父が会社を立ち上げたばかりで余り裕福でもなかった頃…
父を助けるために母もずっと働きに出ていた。
自然、圭吾の面倒は小夜子がみるようになり、幼い二人寄り添うように暮らしていた。
圭吾は覚えていないだろう小さな頃の事だ。
歩き始め、いやいやが始まり、くたくたになって泣きながら圭吾と離れて眠りについた事もあった。
『何故自分が弟の世話をしなければいけないのか』
『何故他の子のように遊び明かしてはいけないのか』
けれども、自分がそうやって眠ると、遠退けた筈の弟がいつの間にか傍らにおり、背中にすがるようにして寝ているのだ。
背中のじんわりとした熱に、圭吾には自分しかいないのだと思い直して過ごしていた。
その背中の温もりが、幸せだった…
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