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「―――入ってもいいか?」  はっきりとした男の声にはっと顔を上げる。  腕の中の赤ん坊は口から乳首が離れてしまっており、火がついたように泣き出していた。 「あっ!!ごめんね、お乳足りなかった?」  カチャリと開けられた扉から隠すように胸元を直す。 「…大丈夫か?ミルクを作ってきた方がよさそうか?」  穏やかに尋ねてくる秋良に首を振ろうとして思い止まった。 「はい…お願いしてもいいですか?」 「出来たら代わるから、少し眠るといい」 「大丈夫です!」 「…俺も、育児に参加したいんだよ」  苦笑を溢して秋良はキッチンの方へと姿を消した。  いい人なのだ…  夜中に子供がいくら泣いても怒らずに一緒にあやしてくれる。  積極的にオムツも替えてくれる。  育児で疲れてるだろうからと、家事をしてくれる。  けれど…その優しさが胸の痛みに変わるのにそう時間はかからなかった。  泣きじゃくる赤ん坊の顔立ちに、幼い頃の圭吾の面影を見てぽろりと涙が転がる。  幸せだった…あの温もり…

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