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「一緒に上まで行く?」
ぐったりとして座り込んでいたのがよほど気にかかったのか、彼は覗き込みながらそう尋ねる。
猫の目のような瞳に見詰められ、どきりとして首振った。
「だ…大丈夫ですっや、休めばっ!!自分のペースで行きますからっ」
年は大分上だろうに若々しい雰囲気を纏ったその人は、「そう?」と笑顔になると、無理するなよ…と言ってはきはきとした歩調で頂上へと向かっていった。
もらったボンベで酸素を補うと、「よし!」と気合を入れて立ち上がる。
砂利に覆われた先を、一歩一歩進む。
後方から来た人に声を掛けられ、声を掛け……やっと登り詰めたその場所で、彼はやっと周りを見回す余裕を持てた。
「ぅ…あー………俺頑張った―――――!」
遥か下に雲を望むその場所に立ち、自らが一歩一歩踏み絞めて歩いたその軌跡を感動を持って見つめる。
こつん
「あたっ」
「遅いぞ」
いつもの生真面目な顔で頭を小突く父を見やる。
「もぅ!遅いとかじゃないだろ!?誰だよ!家族で富士に登るのが夢だった…とか言ったのはっ!!」
「すまん、つい興奮して…」
そう言うも、その顔はいつも通りの四角四面で…
「本当かよ…」
この父親の言葉のどこからどこまでが冗談なのか分からず、頭を悩める。
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