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第6話 喪失と目覚め
頭が痛い。一体自分はなにをしていたのだろうか。頭の中でさっき起きていたことを思い返し、最後に聞こえたヒロの声を思い出してはっと目を覚ました。
「っ…!」
動こうとした瞬間ガシャンと鎖の音が響く。どうやらさっきとはまた違う場所に移動して いるようだった。
可動範囲はあまり広くないが、できる限り首を起こして辺りを確認する。
目隠しは外され、ようやく身の回りを確認することが出来るようになった。今自分がいるのは真っ白な壁に四方を囲まれた部屋だ。前方の壁には大きなガラス窓があり、その横には扉がある。ガラスの向こうには何やら操作パネルのような物が複数見える。身につけていた衣服は外され、一糸まとわぬ状態で拘束台に乗せられていた。まるで病院の分娩台のようなそれは、強制的に脚を開いた状態で固定している。気分のいいものでは無い。
どうにか抜け出せないかと鎖に繋がれた体を動かそうとするが、びくともしない。焦燥感が募るなか、ガチャリとガラスの向こうの部屋で扉が開く音がした。
「おう、お目覚めか。タイミングがいいな、ちょうど次の実験を始めようと思ってたんだ」
「お前…一体何が目的だ」
「そんな簡単に答えるわけないだろ?レイがそれを調査するためにここへ来たのにノコノコ捕まって潮吹きまでして、どんな気分だ?」
「っ……」
屈辱的な体験が蘇り、怒りと恥ずかしさで顔が熱くなっていく。威嚇でもするかのように憎たらしいその男の顔を睨みつけた。
そしてヒロは小馬鹿にしたような笑いを浮かべながら、注射器らしきものを手にこちらへ歩み寄った。
「少し痛いけど、我慢しろよ」
「なに、を…!やめろ!」
必死の抵抗も虚しく、内腿の辺りに注射の針が刺さる。針が刺さってからは大人しくする他なく、若干の痛みと不快感に顔を歪めた。
「くそ…また、違法ドラッグでも使ったのか」
「違法ドラッグだなんて人聞きが悪いな…天才発明と呼んで欲しいもんだ。まあ、まだ試験段階だが」
「ふん、下らない…そんなもののためにわざわざこんな施設まで作りやがって」
「ああ、なんとでも言えよ。直にそんな嫌味も言っていられなくなるぞ」
-ドクン
急に心臓が大きく鳴り響く。最初に使われた塗り薬とは明らかにその強さが違う。身体の中から熱が広がり、自分の中を支配し始めた。
それだけではない。抵抗するために手足に入れていた力がスッと抜けてゆく感覚がある。そして、唇にも力が入らずだらしなく口が開いたままになった。
「なん、ら、これ…」
「催淫剤と筋弛緩剤が混ざったモンだ。まあ要するに媚薬兼麻酔といったところだな」
「そん、なことは、聞いてない…!」
「もう呂律も回らないしココも熱くてたまんなくなってきただろ?」
下腹部を擽るように撫でられると、熱が逃げる場所を探すように身体中を駆け巡った。
「あぁっ…!あ…あ…」
「なかなかいい反応だな。あとは時間経過を見るか…」
ヒロはなにやらブツブツ言いながら部屋を出て、ガラスの向こうの機械を操作し始めた。
熱を忘れるために体を動かそうとしたが、薬のせいで痺れて思うように動かない。脚を台に拘束されていなければ膝どうしを擦り合わせてしまいたくなるようなもどかしさが全身を襲っていた。
「ふぅ…うっ…あぁ…っ」
「そろそろ始めるぞ」
ヒロの声はガラス越しからではなく、室内のどこかにあるスピーカーから聞こえてきた。スピーカーなどどこにも無かったはずだとなんとか首を動かすと、白い壁のタイルがドアのように開き、無数の機械のアームがこちらへと伸びてきていた。
まさかこいつの狙いはドラッグなどではなく人体実験なのだろうか。それならばこの大掛かりな施設や設備も合点がいく。それが兵器となりうるものならば、こちらの国への脅威となるだろう。
しかし、それならば薬に催淫剤が混ざっている意味はなんなのだろうか。資金調達のためにドラッグを売り捌くのは分かるが、人体実験と催淫剤には直接の関連性が見いだせない。
「どうやら考え事をしているみてぇだが、果たして実験が始まってからもそんな余裕があるかな?」
しまったと思い伸びてきたアームに意識を戻すと、そのアームの先には歪な形をした棒状の物や不可解なアタッチメントの数々が付けられていた。
自分の体がどのような目に遭うのかも分からぬま、次の瞬間には複数のアームが襲いかかってきた。
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