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第2話

 実際、二人は交わることなどなかったのだ。  ソイツは入学してから、学校の王様として君臨していた。  誰も彼もがソイツの前ではへりくだり、愛想笑いを浮かべ、ご機嫌を伺っていた。    上級生や教師でさえ。  そうせずにはいられない何かがソイツにはあった。  人の集まる中心にいて、そのくせ誰のためにも心を砕いたりせず、傲慢なままそこにいた。  ただ暴力的に人を引きつけながら。  新しい噂話が駆け巡る。  ソイツの伝説だけが更新されていく。    それは彼の耳にも届いた。  みんながあちこちで囁くから。  楽しそうに。    「モテすぎて女に飽きたんやろ」  「まあ、あの人なら何でも有りやなぁ。でもまぁ、男やいうてもその辺の不細工なんか相手せぇへんで、そらもう、めちゃくちゃイケてる・・・」  「なんやそれ、お前の趣味やろ」  「ちゃうって、見たらわかるて。あの人が相手すんのは女も男もその辺なんかにおらんようなのだけや」     ソイツが性的に奔放である噂も嬉しげに当然回ってきていた。  男子校なのでそんな話はみんな大好きだ。  意識高い連中でも。  そして、ソイツが最近は男でも相手しているらしいって噂さえも、英雄的に伝えられていた。    「ほら、英雄色を好むとか言うやん?両刀って多いやん?歴史的にも」  進学校の生徒達らしく、歴史上の英雄達の名前が並べられる。  ちょっと興味深く、彼はこっそり聞いたのだ。   へぇあの英雄もあの英雄も、バイやったんやなぁ、と。  あくまでも、彼には単なる知的好奇心だった。  ソイツが英雄であることを、誰も疑っていなかった。  英雄達と同じところにソイツの名前を当然のように連ねていた。  ソイツが何かを為す人間だとみんな勝手に納得していて、ソイツの性癖にさえ讃美していたのだ。  英雄が欲しい年齢だからかもしれない。  女でも男でも彼に跪いて愛を請い、彼は気に入ればその身体を使ってやるのだ。  そんな噂が本当なのを、彼は知ることになったのだ。  いつものように閉鎖された旧校舎に忍びこみ、自分のためのスペース、階段の踊場に向かった。  綺麗に掃除して、寝ころべるようにまでにしたそこが 彼は好きだった。     彼が好きなのは、視線のない場所なのだ。  誰も自分を見ない。    誰の視線も届かないところで出来る仕事につくことだけが彼の夢だった。  何か・・・あればいい。  人間に不可能なことなんてない。  誰にも見られず、生きていく方法だってあるはずだ。  そういつも前向きに考えている。  踊場の窓からそそぐ光の中で、寝そべりながら本を読む時間が彼は好きだった。  だが、今日ここは彼の好きな場所じゃなかった。  彼の大切な避難場所に、誰かがいた。  彼は駆け足できてしまったので、その物音に気付かなかったのだ。  「あっ・・・ふうっ・・・」  ズボンを膝まで下ろされ、その上級生は白い尻をソイツに掴まれ、ズボンの前をくつろげただけのソイツに立ったまま貫かれていた。  ぽかんとそれを階段の下から見る。    彼等は行為に夢中で気づかない。    貫かれているのが上級生だと知っていたのは、有名人だったからだ。  モデルのような美貌の上級生は男しかいないこの学校で、とても目立っていたのだ。  性別を超越した美貌。  こっそり言い寄る連中もいたらしいが、誰ひとり相手にされていなかった。  言い寄ったなら、酷く冷淡に笑いモノにされ、振られるだけではすまない、という話だった。  告白したところを動画に撮られ、あちこちに回された奴もいるとか、振られた恨みから刺そうとしてきた奴を逆に叩きのめし、今では反対に脅して奴隷にしてるとか。  そんな噂がある、上級生だった。   彼の耳にも届く程、有名な。  見た目はともかく、あれは「女」じゃない。  ヤバい男だ近づくな。  そう言われいた。  苛烈な性格と、成績での評価が絶対のこの学校で、上位に君臨するその上級生は、「女代わりにされる」ことを誰よりも許さないはずのその上級生は、今、ソイツに貫かれながら、声を上げて喘いでいた。  壁に手をつき、自ら腰を振り、彼がスマホでこっそり観たことのあるエロ動画の女の人よりもエロく、身悶えていた。  彼はショックを受けた。  何これ。  いや、別にエロいのがショックだったけわけではない。  女よりエロいのには驚いたけれど。  エロ動画は見ていた。  関心がないわけではない。    現実の人間には興味がなくても。  自分が見られることのない動画なら、エロティズムは感じられるから。   自分を想定してなければ・・・。  脳裏に一ミリでも自分の姿か映ることを彼は許さない。     とにかく、誰にもそんな扱いを許さないと有名なその上級生がソイツにはそう扱わせていたことに驚いたのだ。  「お願いや・・・イかせて・・・」  上級生は泣きながらねだった。  女のように。  白い尻が淫らにくねる。     低い笑い声はソイツからした。  楽しそうな支配者の声。     「お願い・・・お願い・・・奥に欲し・・いねん・・奥、突いてぇ・・・」  上級生は泣き叫んだ。  いつも冷たく人を小馬鹿にしたような綺麗な顔が、ぐちゃぐちゃに歪んでいた。  誰のものにもならないはずの上級生が、必死で懇願していた。  それにショックを受けた。  「お願い・・・お願いやからぁ・・」  腰を掴まれ、うごけなくされ、上級生はさらに泣き叫ぶ。     低く楽しげな笑いがまたした。  満足していた。  その声は人を支配したことに。  「お前は俺のなんや?」  低くその声は囁いていた。  上級生の顎をつかみ、背後から耳元にささやく。  「俺の何や?おまえは?」    そして、強く一度突いた。  衝撃に身体が揺れたのは、物理的な意味だけではない。  上級生のそりたった性器からまたトロリとこぼれたことがそれを証明していた。  ひぃ   上級生は声を上げた。  でも一度しか突いてもらえないことに、身体を震わす。  「お願がいや・・・欲しい・・ねん・・気持ち・・ようなり・・たい」  泣き叫ぶ。  薬物中毒の患者みたいだ、と彼は怯えた。  「お前は何やの?俺の?」  低く笑いながら制服のシャツの下を手が這う。    ボタンが外されていて上級生の白い胸が露わになる。  その色付いて尖った乳首をソイツが摘まんだのが見えた。      あっ  身体を震わせた。  でも、もうそんなものでは足りなくなっていた上級生は2学年も下の下級生にとうとう言う。  これを言わせるためだけに、責められ続けていたのだ。    「奴・・隷、オレは・・お前の奴隷や・・そやから、やからシて・・」  あの傲慢なまでに誇り高い上級生はそこにまで自分を落としていた。  「ええやろ、シたる。お前も動けや」  満足そうにソイツは言った。  その声にゾッとした。  こいつは多分この言葉の方がセックスより大事なのだとわかったから 「なぁ【先輩】・・・可愛がってさしあげますよ。俺の奴隷になりはったんやから」 本当に楽しそうな声でソイツは笑った。 さっきまで【お前】呼ばわりしていたくせに。 それは場違いなほどの楽しげな声で。 ゲームに勝った少年の声だった。 パンッ 肉が打ちつけられる音。 ああっ 上級生が涎をながしながら白眼をむく。 綺麗な顔は崩れきっていた。 激しく腰は動き、崩れ落ちそうになる身体を背後から腕を掴まれまた突き上げられる。 楽しげに笑うソイツ。 まるでスポーツでもしてるかのようだ。 激しい動きから、腰は複雑な動きに変わっていた。 深く淫らに。 いいっ いいっ ただそう叫ぶだけの上級生。 何もかもを脱ぎ捨てた欲望だけの姿。   ボタンがはずれ、むき出しになった胸の乳首は赤くとがり、吸われた跡が胸もとに散る。 性器は立ち上がったままで、ダラダラと白濁を垂れ流していた。 このまま、殺してぇ 上級生は叫んだ。 涙と涎がたれながされる。 ここが学校であることを忘れていた。 もうどこにもいつもの、冷たく取り澄まし、見下したような姿はなかった。 それはいやらしさよりも、恐ろしい姿だった。 もっと  あかん もっと あかん 上級生は要求と拒絶を繰り返す。 喉はあがり、身体は反り返り、膝はガクガクと震えていた。 人間はこんな風になるのか。 彼は思わず見入った。  怖くてうごけなかったのだ。            

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