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第13話

 なんでオレがこんなこと・・・、彼は恥ずかしさに死にそうになっていた。  アイツの命令でさがしてきたのだ。   その。  なんだ。  穴を潤せるものを。  耐えられない。  真っ赤な顔をして、ハンドクリームをアイツに渡した。  アイツは微笑みながら受け取った。  嬉しそうに。  「いっぱい濡らして慣らしてやるからな」  その言葉にまた死にそうになる。  なんでそんなこと言うんや、と。      またきゅっと抱きしめられた。  「ベッドはどこや、案内しろや。可愛がってやるから」  アイツの囁きに彼はさらに赤くなる。    自分を抱くベッドへと自分で案内するのか。  何やのこの羞恥プレイ。  叫びだしたくなる。  長い間セックスと無縁で生きてきた彼に、これからセックスしますといった準備や、自分からベッドを提供するみたいなことは恥ずかしすぎた。  そういう恥じらいを一切アイツは気にしない。  でも、そういうヤツだった。    最初に抱きしめられ、本ごと抱きしめられた時は良かった。  もうこのまま流されてもいいか、と思った。  彼もコイツが欲しかった。  ずっと。  だから。  だけど。  キスされた。  彼にとっては初めてのキス。  最初は唇が優しく重なった。  何度も啄むように。  それに恍惚となった。  少し傷にひきつった唇を舐められ、唇を開くことを要求され、彼は唇を開いた。  厚い舌が熱を持って侵入してくる。  それを許した。  明け渡した。  そして、奪われるようにキスされた。  ここまでは良かった。  昔教え込まれた口の中の快楽の場所を指ではなく、舌でなぞられ、思わず呻いたことも。  キスだけで自分のが勃起していることも。  それにアイツが自分のモノも固くなっていることを教えるみたいにゴリゴリ押し付けてきて、その感触に喘いだことも。  でもここまでだった。  忘れていた。  コイツが最低男だってことを。  ムードがあったのはそこまでだった。    耳元でアイツが言った。  「セックスさせろや」  めちゃくちゃはっきり言った。  「抱きたい。身体舐め回したい。穴にぶち込みたい。一番奥まで突いてやりたい」  ソイツの口説き文句は最低だった。    「ええやろ、なぁ」  でも、見つめる目だけは真剣で、YESと言うまて許さないつもりなのは解った。  逃がさないやうに両腕を掴んだ指が震えていた。    もうええ。   彼は白旗をあげた。    「好きにし」  溜息をつく。    「ほんなら、お前の穴濡らすやつ持ってきて。アナル用のローションとかあるならええけど、ないか?」  テキパキ言われてドン引きした。  アナル用ローション。  あるわけがない。  「無いん?」    なぜか嬉しそうにアイツが言った。  「オイルとかでもいいで?お前が使っても良さそうなやつ」  アイツの言葉に居たたまれなくなる。    「お前が痛いのは嫌やからな、なんか探してや」  アイツはニコニコ笑いながら言ったのだ。     彼は溜息をつく。  「は、ハンドクリームなら」  なんでなんで、こんなこと。  なんでなんでこんな。  「取ってきてや。めちゃくちゃ気持ちようしたるこらな」  アイツの笑顔が許せない。  それでも。  それでも。  彼はハンドクリームのチューブを取りに行ったのだ。  アイツに抱かれるために。  そして寝室へ自分からアイツを導き、自分からベッドを提供したのだ。  もう流されたなんて言い訳、できなかった。  「顔見せろや」  アイツがベッドに彼を押し倒して最初に言ったのはそれだった。    カーテンを締めたままだった部屋の明かりをつけて、寝室に導きいれて、彼は明るい寝室に怯えた。  このままでは身体の全部を晒してしまう。  電気を消そうとしたいた手を掴まれ、明るい光の中てベッドに押し倒された。  いきなり?  シャワーとか。  色々考える。  作業をしていた身体で?  落ち切れてない指の汚れや汗が気になりはじめる。  「シャワー・・・」  言いかけた言葉を遮りソイツは言ったのだ。  顔を見せろ、と。    彼は戸惑う。   何故みたいのか。  彼には見られることになんの抵抗もない。  でも、人には気持ち良いものではないはずだ。  「見せてや」  懇願された。    「気持ちええもんやないで?」  彼は言う。  今見えている顔の半分でさえ、たくさんの傷跡が走っている。  でもこれは隠している方に比べたなら大したことはない。    唇が少しつり上がっている位だ。  そう、こちら側なら友人の妻が言うように  「充分ハンサム」と言えないこともないかもしれない。  皮膚に刻まれた傷以外は整った顔がそこにある。  でも、前髪に隠したもう半分は・・・。  「見せてや・・・」  アイツは無理やり見ようとはしなかった。  ただ、願う。  真っ黒な目は彼の顔を見下ろしている。  髪に隠れていない部分を食い入るようにその目は見つめる。  視線に焼かれそうだ。  探しているのか。  あの頃の少年の面影を。  コイツが何度も指でなぞったあの顔を。  でも、知っているはずだ。  上級生に手を掴まれ、顔に割れたビンを何度も振り落とされた時、彼は顔を背けて少しでも攻撃を避けようとした。  その結果、半面に傷は集まってしまった。  こちらの方が酷いことを知っているくせに。  美しいと言われていた母親に似た顔が好きだったコイツは何故、そんなもの見たいと思うのか。  彼は溜息をつく。  まあええ。  嫌になったらせんかったらええんや。  正直、実際こうなって、のしかかられた身体の重みに怯えていた。  本当にするセックスに怖くなってきていた。  だから、少しこの状況に安心もしていたのだ。  過去の彼に恋していたコイツは、もう彼から離れるだろう。  それに安堵していた。  彼は自分から、髪をかきあげ、その半面を晒した。     髪をかきあげた時、ソイツは息をのんだ。  それに驚きはしなかった。  つい見てしまった時は誰でもそうなるからだ。  「失明しなくて良かった」  医者はその幸運のみに目を向けた。  10代の少年が受けた仕打ちにの酷さに耐えられなかったのは医者の方だったのだ。  肉がそげるまで執拗に刺されたその半面は人間のモノとは言い難い形状になっていた。  半ば開いたような目はわずかに瞼がうごくだけ。  奇怪な形に歪められた目。  視界はほとんど遮られ、「失明しなくて」とはあまり喜べない有り様だった。  欠けた肉、盛り上げる瘢痕、目元から耳にかけて顔面の破壊は凄まじかった。  赤黒いゴムのようになった皮膚が、まるで奇怪な仮面のように張り付いていた。  それでも彼はこの顔が好きだった。  以前の顔よりも。  でもコイツは違うだろう。  彼は真っ直ぐにソイツを見た。  自分を見下ろすソイツを。  このまま身体を離しても許すつもりで。  ソイツは一瞬顔を歪め、そして息を吐き出した。  耐えれないみたいに。  「ええんやで・・・」  彼は行為を止めることを提案しようとした。  ソイツが止めやすいように。  でも言いかけた途中で、髪に指を入れられ、ソイツが覆いかぶさってきたのだ。  顔が顔に近づけられる。   また傷つけされるのかと思った。  でも、違った。  熱い濡れた感触が顔に走った。    舐めていた。  アイツは彼の半面の破壊された側を執拗に舐め始めていた。  「何を・・・」  言いかけた唇に指が差し込まれた。  指は口の中を撫で始める。  盛り上がった瘢痕を舐められる。   美味しい食べ物でも食べるかのように。  口の中の感じる場所を改めて指で教えられる。  濡れた舌、そして唇。  軽く歯さえあてられ、感覚の鈍くなったはずの皮膚が熱く燃え始める。  「綺麗や」  アイツは囁いた。  何を言ってんねんと思う。   ふぅっ  舌を指で撫でられ思わず身体がはねた。  「お前はどんなになっても俺を勃たせるんやな、すげぇキタわ」  股間を太ももに押し付けられる。  信じられないことに、ソコはあんな顔を見ても、醜く変化した顔をみても、まだ固く勃起していた。    いや、むしろ、さっきよりも熱く固く大きく。    執拗になめてくる舌に、怖くなる。  丁寧に瘢痕をなめられ思わず声がでた。  ああっ   ふうっ  顔を背けてようとしてもつかまれて、舌から逃がしてもらえない。  おかしい。  彼もおかしい。  傷跡をなんかをなめられて感じている。  「完勃ちしてもうたわ・・・お前、たまらんわ」  低い声で笑われ、彼は震えた。    怖かった。  もう止めてなどもらえないのだと悟ったから。  コイツには傷跡さえ、欲情させるものなのだ。  「お前・・・どんな変態や」  怖くて言った彼の言葉にソイツは破顔した。  子供みたいな笑顔だった。  「どんな変態か教えてやるんやろ、これから」  その言葉に彼は目を見開いた。  何されるんや、これから。  彼は怯える。    その顔をみてソイツはニヤニヤした。  「お前にやったらどんな変態にもなれるんやで、良かったな」  半ば開いたままの、歪んだ目の眼球を舐められた。  ふぅっ  その感触に声を立ててしまう。  なんで眼球をなんか。  変態や。  「普通でいい」  彼はせめてもの要求をする。  「・・・まぁ、努力はしたる」  しない、とアイツは意志表示した。  彼は身体を強ばらせる。  彼のシャツのボタンにアイツは手をかけた。  外していく。  「愛してる。ずっと」  でも真剣な顔でそう言った。                 

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