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第2話
可愛い
可愛い
男は目をとじて彼を抱く。
実際の肉が誰であろうと関係なかった。
欲しいのは彼だけだ。
男の愛にとろけた肉体。
男の言葉に反応する身体。
ほころんではいてもキツイ穴。
もっとしたら馴染むかと思えば、愛しすぎる。
枕を押さえつける必要がなければ・・・もっと可愛がってやれるのに。
男は舌打ちした。
「 !!」
ソレを呼ぶ。
特別にベッドに上がることを許す。
「口押さえとけや」
命令する。
声が聞こえたらさめてしまう。
ソレが小さな声で口を押さえたことを告げる。
「可愛がったるならな・・・ホンマ可愛い」
男は肉を通して彼に言った。
会うことのできない彼に。
全身可愛がってやりたい。
愛したい。
優しい舌使いで、乳首を舐め味わう。
肉の向こうの彼を愛する。
あの町にいる彼を愛する。
まだ会えない彼を愛する。
また身体が愛にとける。
ああ、可愛い。
お前は他の誰かに触れたりせんから、一人夜その身体を慰めてんのか?
この肉を通じて、俺の感触が伝わればいいんやけどな。
狂ったことを考える。
この肉をとおして、彼を抱いているという発想は最高に男を興奮させた。
「可愛い、可愛い」
腰をゆったり使いながら、乳首を噛んだ。
見えない身体が痙攣し、締め付ける。
中だけでイったのか。
「愛してるんやで。お前だけや」
男は肉の向こうの彼に向かって、射精した。
気持ち良いだけじゃない満足感は、本当に彼を愛しているからだ。
満足出来るのは肉を通して彼を抱くからだ。
出してからも挿れたまましばらく抱きしめ続けた。
あの町で眠る彼を思って。
思い浮かべる彼の顔は、探偵の撮ってきた数年前の写真のモノだ。
探偵は始末した。
父親のツテを使って。
彼と自分の繋がりを誰も知ってはいけない。
常に側にいるソレでさえ、彼の居場所を知っていることを知らない。
まだ愛してることは知っていても。
同じ過ちは繰り返さない。
始末した理由も誰も知らない。
すぐに処分した写真の彼は綺麗だった。
脳に焼き付けたからいつでも見れる。
探偵は彼一番深く傷ついた顔の部分も上手く撮っていた。
風が吹いた瞬間の。
その顔をおもいだしたら、肉の中に挿れたままのソレがまた硬くなった
「も一回、な?」
男は彼に向かって言った。
閉じた目にはあの顔が焼き付いている。
綺麗だ。
綺麗だ。
お前だから綺麗だ。
「誰よりも綺麗だ」
そう囁きながら、今度はゆっくりじっくり愛した。
早く、彼の父親が死ねばいい。
そしたら、肉じゃない彼が抱けるのに。
でも、彼の父親は殺せないから待つしかない。
殺せるわけがない。
彼の父親なのだ。
男は父親の死を祈りながら、肉を通して彼の中をたのしんだ。
この感触が伝わればいいと願いながら。
愛しさで肉は甘く溶けて、彼への思いをいくらでも放てた。
「愛してる」
この言葉が届けばいいのに。
男は切なく思った。
その後、青年を送ったのはソレだ。
茫然となっている青年を風呂にいれてやり、おそらく、風呂の中でソレも青年としただろう。
男が出した精液にまみれた穴を、恍惚として貪るのだ。
そこから零れる精液さえ舐めただろう。
舐めさせても、もうソレの口には男は出さないからだ。
キスさえしない。
唾液さえ与えてない。
だから。
ソレは青年を貪る。
男がキスした口の中の唾液、彼が舐めた場所。
中に放たれた精液。
餓えた亡者のように。
ソレは男とする時以外は抱く方を好む。
男が他人が挿れた穴を使う気はないのを知っているからだ。
もっとも、抱いてもいいのは男が抱いた後の男だけだ。
共有はごめんだが後始末はさせる。
いちど抱いたら二度と抱かない。
慣れてないのが好きだ。
彼に近くないといらない。
だからソレに後始末をさせる。
ソレにした後で抱かせると色々面倒がないからだ。
部屋で許可なく射精することを男はソレに許していないから、ソレは喜んで風呂で男の後始末を引き受ける。
苛めて、追い詰め、そしてイカせて。
そして支配するのだ。
男に心の一番大切なものを壊された青年達は、ソレにすがり、すっかり懐柔されるのだ。
傷つきすぎた彼らはソレの言う通りに思いこむ。
あれは「経験」だと。
性的な冒険をしたのだ、と。
全部書き換える。
ソレの言う通りに。
人には言えない性的な冒険をしたのだ、と。
ソレが高級車で家まで送り届けるころには、「やりすぎた冒険」について反省はしても、もう思い出そうともしなくなる。
それが傷付きすぎたせいだなんて、彼らは思わない。
男は大学で青年にあっても、振り返りもしないだろう。
そして、青年は自分が悪いことをしたみたいに、コソコソと逃げるだろう。
男にはどうでもいいことだった。
ただ、もう一つやることが残っていた。
青年を送ってきたソレは部屋に入ると、服を脱ぎ捨てた。
全て。
ベッドには入れてもらえないから、床に四つん這いになる。
余計なことを言うことは許されていない。
ただ、自ら尻を割開き、高くあげて待つだけだ。
男は黙って裸のままベッドから降り、ソイツの尻を鷲掴みにした。
そして、一気に貫いた。
床の上で犯されなから、ソレは叫ぶ。
ベッドで甘く抱かれる肉達とはちがって、ソレがされることは暴力的だ。
そうこれは暴力。
復讐だ。
男から彼を奪ったソレへの。
彼を傷つけたソレへの。
冷たく機械的に犯す。
穴の具合はいい。
そこだけは気に入っている。
ソレ以外とする時は、イカせてやることを楽しむが、これは違うただの暴力だ。
髪を掴んで突きあげる。
うああっ
ソレは苦痛の叫びをあげる。
でも性器は勃起している。
先走りをたらしながら。
でも、射精は許されてない。
命令されるまて、それは許されない。
乱暴にただ、苦しめるためだけに犯す。
でも、ソレの肉体はそれを快楽に書き換えている。
それに凶暴さが増す。
殺すつもりで、奥まで突いた。
ひぃ
身体を痙攣させて、ソレが中だけでイク。
彼の顔に刺さったガラス。
たくさんの傷痕。
こそげ落ちた肉。
あの現場の凄惨さ。
貫く。
貫く。
殺すつもりで。
ソレは涎をたらして、白目をむく。
面白いことに、殺意ほど勃たせるモノはない。
彼以外ではソレが確かに男を欲望に駆り立てる。
抱けば抱くほど、覚めていく、冷ややかな欲望であっても。
思い知らせる為だけに抱く。
「お願い・・・お願い」
ソレが出させて欲しいと泣きだす。
射精さえ許さない。
でも、ソレはイクのだ。
乱暴にされて、憎まれて、そんな行為で出さずにイクのだ。
それに軽蔑し、軽蔑は欲望になる。
また刺し殺すことに夢中になる。
罵り
軽蔑しながら
貫き続けた
でも最後には出すことを許してやった。
中には挿れてやらない状態でソレは一人で射精した。
男の命令だけで。
やるだけやったら、崩れ落ちたソイツに構わずにベッドにもどり寝る。
ソイツは床で寝る。
別にそれを強要はしてない。
この部屋で寝たいならそこしかないと言っただけだ。
名前もない。
人として扱ってない。
扱うつもりもない。
彼を傷付けたのだ。
そして俺から奪った。
ゆるさない。
やはり殺してしまおうか。
本気で検討する。
でも彼を思い浮かべたら、少し落ち着いた。
彼を思うと、何か胸が暖かくなる。
あの町で本を作る仕事をしているのだと。
静かに作業している彼を思った。
それは美しい光景だった。
その胸の暖かさが、殺すことをあきらめさせた。
その暖かさを抱きしめて眠る。
彼がいてくれたなら、俺は人間になれたかもしれないのに。
男はそう考え、すぐに頭を振った。
無理だ。
俺は壊れてる最初から。
でも彼だけが。
彼だけが。
胸の暖かさに手をやり、眠った。
そのベッドの足元で、ソレが死んだように眠っていた。
裸のまま打ち捨てられて。
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