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第3話

 男は彼を見た時のことを思い出す。  高校のころ。  誰もいないはずの閉鎖された別館。  ソレを初めて使った日に、誰もいないと思っていたあの場所に、彼がいた。  ソレの中に出すだけだして、教室に戻ろうと思った。  午前中いっぱいソレで遊んだから、もういいかと思った。  ソレのことは今のように憎んではいなかった。  何とも思っていなかったが、自分のことを手に入れようと必死になっているのは悪い気はしてなかった。  誰にも手に入れられない危険な花だとされているなら尚更だ。  自分の魅力に自信を持っていて、一度寝たら相手を支配出来ると思っているところも気に入った。  多数と寝てるようなのは興醒めだが、そこまで経験は無さそうなのもしてもいいと思った理由だ。     それに何より、  面白い。  どちらが支配するのかの勝負というのが。   それが一番の理由でソレを抱いた。  「やらせろや」  そう言うとソレは顔を染めた。  指が震えていた。  今ならどんなプレイでも平然とこなすソレだって、あの頃はそうだったのだ。  見つけた場所がある、と少年だった男を連れてソレはあの場所に行ったのだ。  勝負は男の勝ちだった。  楽勝だった。  ソレは男に恋をしていた。  その時点で負けてる。  男はソレを何とも思ってないのだから。  でも、楽しんだ。  そして、行為が終り振り返った時、彼がいた。  奇妙にその場所が掃除されていたから、誰かがここを使っていたのだろうとは思っていた。  ソイツか、と思った。  帽子。  前髪  マスク。   メガネ。  奇妙な格好は知っていた。  醜い姿を隠しているという、同じ一年生だ。  興味はなかった。  ただ何となく、そのメガネの奥の目を見つめただけだ。  そこで何が起こったのか今でもわからない。  あれは何だったのか。    美しい形の目が分厚いガラスの向こうにあった。  ガラスを取り除きたいと願った。    その瞬間視点が逆転していた。     少年だった男の姿を、彼の視点から男は見ていた。  相手の目で、自分を見ていた。  激しい混乱が起こった。  有り得ないことが起こっていた。   人の目を通して自分を見ていた。  それは自分の視界ではなかった。  違う風に世界を捉えていた。  「オレを見るな!!」  彼の悲鳴が響きわたるまでそれはつづいた。  騒ぎになる前にその場を離れたが、わすれられなかった。  あの目を見た時のことを。    精液を尻から垂れ流していたソレがどうやってあの場をごまかしたのは知らない。  興味もない。  何かあってもどうせ父親がもみ消すから気にしてなかった。  父親や母親達との関係もゲームだ。  支配するかされるかの。  今は彼の支配下だ。  子供の頃から彼はゲームの達人だったから。  どちらもいいなりに動く。  とにかく、ソレが恋人面して寄り添ってくるようになったが、どうせ誰か常によってくるのだから構わなかった。    ソレを連れて歩くことで、支配ゲームが優位に進められるのもちょうど良かった。  くだらない性的幻想に取り付かれた男社会では、ソレに人前でさせるフェラチオなどが、支配にするのに有効な評価になったりもしたからだ。  近隣の女学生に手を出したのもそんな理由だが、女は色々面倒なので、基本ソレが一番楽だったのは事実だ。  ゲームの勝者として、存分にソレで楽しんだ。  まだその頃は、ソレではなく、名前で呼んでいたし、イカせてやることも楽しんでいた。  気が向けば会話もしたし、笑い合いもした。  持たされたカードで何でも買ってやった。  それは経費として考えていた。  穴の具合も反応も気に入っていた。  でもそれだけだった。  学校のトイレでソレを犯した。  屋上で咥えさせたりもした。  家の自分の部屋に連れ込みソレを犯した。   して欲しいとねだれたなら、気がむけばした。  年頃らしく、大概したくなったからした。  どこででもした。  通りの裏の建物の隙間で。  公園のベンチで。  植え込みの陰で。  長い脚も白い肌も、感じやすい身体も。  穴も。  気に入ってはいた。  女より男とする方が支配欲も満たされる。     噛んで吸って所有の印を全身につけた。  他人に使われないように。  共用は嫌いなのだ。  全身舐めてやった。   自分のモノとして。  ソレはその度、嬉しそうに声をあげた。  支配されて喜ぶなんて、敗者の考えることはわからない。  でもそれだけだった。  気になるのは、彼だった。    しばらくしてからあの場所に行った。  ソレを追いやるのが面倒だったが、強く言えば離れる。  言いなりなのだ。  言えばなんでもするのがイラつくことがある。    一人であの場所に向かう。  彼に会いたかった。  他人の視点でモノを見た。  彼の視点でモノを見た。  自分を彼は恐怖に満ちたまま見ていた。  自分の瞳の黒さが、彼の目を通すと闇に見える。  そして、男の目からみたらただの踊場が、彼の目には聖地のように見えたこと。     物の一つ一つに意味があるような、恐怖でさえどこか詩であるような世界の捉え方。  そして、彼の目から見た自分を気に入った。  恐ろしくはあっても、自分から見る自分とは違った。  彼は聖地を侵略する魔物のように自分をみていた。  ゲームの支配者よりそれは良かった。  それに興味を持った。  そして、同じように自分の目から見られただけの彼が悲鳴をあげたのは、彼は男がみている世界に怯えたからなのか?  俺がみている世界はどんな世界で、彼とはどうちがうんだ?    疑問を持った。  人からどう見られているかなんて気にしたとがなかった。  そして何より。  自分を見つめた目の美しさをわすれられなかった。  

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