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第6話

 彼を腕に抱いても出来ないことが幸せであっても、フラストレーションが溜まっていた。    ソレを抱いても抱いてもおさまらない。  この餓えは別なのだ、と思った。    彼を抱いたりはしない。  ちゃんと準備が整って、彼が受け入れてくれる日まで。  いつか二人で暮らすのだ。  彼が静かに暮らすとなりで自分もいる。  ゲームなんかやめていい。  でも今は。  ソレの中にいくら吐き出しても、餓えはおさまらなかった。  死ぬ  死んでまう  ソレが叫ぶのを貫く。  四つん這いにして、背後から。  彼に触れている時にはない、加虐への欲望で。  「死ねや」     そう言いながら。   脳まで貫くことを繰り返す。  傷付けたいと思うことが欲望に繋がることが、普通なのだと思っていた。  今までは。     あかん  あかん  そこ、そここすってぇ  擦って欲しい場所を外して腰を揺らせば、ソレは泣き出す。  ゲームだ。  支配するかされるかの。  「ちゃんと言えや」  冷たい声で言う。  快楽を負ってはいても、どちらが勝者なのか示されなければならないことは絶対だ。    「お願いやからちゃんと擦って下さい」  すすり泣きながらソレは言う。  「お前は俺のなんや?」  ゆらゆら焦らすように腰を揺らしながら言う。  「なぁ?」  この声は甘いかもしれない。    人を支配するのは大好きだから。  「・・・奴隷や」  悔しげにでも堪えられず言ったことに満足した。  腰を掴んで思い切り突いた。  欲しがっていた場所ではなく、ソイツの一番好きなところを。      ああっ   そこっ  奥っ!!  ソレは歓喜して叫ぶ。  この部屋の壁は厚いが、べつに部屋の中の声は外に聞こえても問題ない。  母親はステレオの音量をあげるだろう。    二階に上がってくることはない。  誰にも邪魔させない。  したいようにする。  でも、彼は。   彼といるとなると。  むずかしくなる。  生まれて初めてだ。  他人に対してどうしたら良いだろうとか考えるのは。  でも。  「俺に刺されて死ねや」  甘く囁く。  優しい言葉でも貫きながら、崩れ落ちた身体の腰だけを持ち上げながら、深く深く・・・刺し続けた。    噛まれ吸われ、所有の印を全身に刻まれたソレは、さされる度に震え、生気から少量の精液を吐き出し続けた。  殺して  殺して  このまま殺して  泣きながら、イキながら繰り返される言葉に返す言葉はない。  殺す程の関心はない、そんな本音を言うのは、ゲームの初心者でもしない。  でも、ソレがのぞむまま、一番奥に放ってやった。      間違っていた何もかも。  ゲームのプレイヤーとしても駄目だった。  全てをコントロールできると思いこんでいた。    初めて代わりを作ったのもこの頃だ。  でも一度だけのつもりだった。  あの事件が起こるまで、一回だけ。  学校で同い年の少年に告白された。  好きだと言われることは良くあることで。  でも、男からはそんなにはない。  でも、それだけのことだ。  ただ、真っ赤になりながら、震えながらの告白に、まだ未成熟なその身体に、少し彼を重ねた。  「俺とセックスするか」  そう言った。  「したいならしてやってもええぞ」  笑いながらそう言った。  少年は目を驚いたように見開く。  何を云われたのかわからなかったのだ。    「・・・俺をくれてやろうって言うてんねん。セックスの間だけは・・・お前のもんやぞ」  顔を寄せて耳元で囁いた。  甘く囁いた。   嘘ではない。  なんとなく今閃いたからだ。  優しくしてやろう。    優しく優しく愛してやろう。    身代わりの肉として。  「俺と来いや」  優しく誘った。  こんなにも優しい声が出るのかと自分でも思った。  彼の身代わりだと思うだけで。  少年は頷いたのだ。  恋した男が本当に優しかったからか、一度だけでも恋人みたいに寝てたかったからか、好奇心か。    頷いてしまったのだ。  だが実際、初めてみると醒めてしまう。  彼とは違うのだと思い知らされてしまう。    なのでその時もソレを使った。  途中からソレが代わって、少年の準備をした。  少年の肩を抱いて連れ帰るのを追いかけてきたのだ。  これから少年とセックスするのだと言ってもついてきた。  真っ白な顔をして。  面倒なのでそのままにして、部屋まできても帰らなかったから、無視して少年を抱き始めたのだが、途中で飽きてしまった。  誰でもいいなら、面倒のないヤツと寝る方がいい。  ガチガチの身体に構うのに閉口していた。  でも優しく抱くと約束したのだ。    「代わったる・・・オレがしたる、面倒なんやろ」  ソレが言った。  目がキラキラと光っていた。  ゲームだ。  コイツは今ゲームに参加することを思いついた。  「オレがええ具合にしたる、挿れやすいように。そしたら、その子を可愛がったり、存分に」  ソレの言葉に少し考える。  悪い考えではない。    だが、まず少年に了承させねば。  少年は混乱していた。  裸のままで。   人前でしていることも、参加者が増えることも想定外だろう  でも、もう身体に火はつけている。  優しく吸った乳首は尖っているし、性器は勃ちあがっている。  キスをした。  目を閉じて、彼を思いながら。  慣れない舌を愛しく絡め取り、優しく擦らせあった。  優しく優しく舌を使った。  怖がらないで、と宥めるようにキスをした。   こんなキスが出来るとは自分でも知らなかった。  漏れる吐息を彼のものに書き換えた。  「構えへん?」  キスの後優しく聞いた。  ぼんやりしていた少年は、夢の中のように頷いた。  「俺がキスしとる間に、お前が解せ。余計なところは触るなや」  ソレに言った。     他人と共有するのが嫌いな潔癖さをしっているソレは頷いた。      もう服を脱ぎ初めている。  ペロリ、舌が唇を撫でた。  自分の身体の上に少年を乗せて下から抱きしめなからキスをする。  その少年の尻にソレが顔を埋める。     もうコイツとはキス出来へんな、そう思った。  元々そんなにキスをしたことはなかったけれど。  でもソレはゲームに参加してきた。  コイツもそれなりにゲームの達人なのだ。  恋人の位置にすわり、どんなセックスであろうと絶対に参加してくるのだから。    目を閉じて、彼とキスをした。   彼を思ってキスをした。    まだ声代わりが終わったばかりの声が、彼に似ていた。  だから、尻を舐められ泣き始める声に興奮した。    「可愛い」  優しく囁き、準備が整うまで、キスで溶かした。  彼を。  この肉の向こうの彼を。   「もうええで」  ソレが口を拭いながら言った。  穴は十分柔らかくなったと。  頷く。  しがみついて泣いている少年の髪をなでた。  身体はもう、力無く、とろけていてる。  穴はひくついているだろう。  快楽を求めて。  何が欲しいのかも解らず、少年は泣き続けている。  触る髪の指触りが違う。  肌の感触も、もっと痩せた身体の愛しさも。  でも、仕方ない。  それに、声は似てる。  それはとても大事なことだ。    ベットにうつ伏させて、尻を持ち上げ、優しく、でも、欲しがりながら挿れた。  これは彼だ。     あっ   いやっ  かすれた声。  これは彼の声だ。  柔らかくはあっても、まだかたいそこ。  押し入るのだ。  腰が勝手に動く。  入りこみたいと。    目を閉じた。  彼を思う。  この肉は彼だ。   彼なのだ。  「好きや」  言葉は勝手に溢れた。  思うだけで。  息を呑んだのはベットのそばにいたソレだった。   夢中になっていたからかまわなかった。       優しく腰を使った。     怖がらせないように。  何っ?  何・・・これぇ  あかん  あかん    生まれ始めた感覚に彼が戸惑う。    ああ、可愛い。  可愛い。  彼が身体を痙攣させ始める。  そう彼。  彼なのだ。  「好きや」  そう言いながら、愛した。  これはセックスじゃなかった。  愛だった。  自分を包み込む肉を愛した。  これは彼だから。  夢中で溶けるように腰を使った。   彼だとおもうだけで、暴発しそうなほど興奮していた。  こんなのは初めてだった。  気持ちよくて、愛しい。   彼の中なのだから。  「たまらへん・・・最高や」  思わず呟いてしまうほど。  いや、もう許して  許して    そう泣く声がよかった。   彼に似ていたから。    「まだまだや・・・好きや、好きなんや」  身体の他の場所に触れたなら、違いに醒めてしま う。  目を閉じて、その声と穴の感触だけに酔った。    彼とはしたことがないから、どんな穴でも彼だと思える。   彼を愛した。  誰にも使われたことのない穴を奥まで拓いて。  存分に動かし、擦りあげた。    気持ち良いところを見つけ、全部擦ってやった。  ああっ  なんで・・・  ああっ  彼の声が濡れていく。  自分が感じるものが理解出来ないまま。  快楽を知らない身体が解けていくのが、「好きだ」と言う度に穴が締め付けられ、溶け合うのが良かった。  解けたい。  溶け合ってドロドロになって混ざり合いたい。  彼と。    「俺を好きになって」  切ない声は自分のものか。  その声にまた身体が溶ける。  全部をあけわたされた身体を受け止めるため、奥深くで放った。  何度も放ち、動き、溢れる位になった時、やっと抜いた。  彼を思ってするセックスは最高だった。  抜いた後の身体は見なかった。  さっさと立ち上がる。  醒めてしまうから。  ソレがまだ帰っていなかったことに気付く。  ちょうどいい。  「隣のバスルームで、綺麗にしたれ。で、送ったれ。タクシー代はだす」   ソレに命令した。  ソレは、また真っ白な顔をしていた。  セックス見てたのに興奮もせんのか、と思った。    でも続けて言った。  「優しく、な」  そう約束したのだ。  ソレは唇をかみしめ、頷いた。  少年を抱き上げる。  コイツが見かけ以上に強いことはしっている。  そして少年の唇を塞いでこれ見よがしにキスをし始める。     「ここですんな、それから・・・ちゃんと本人の了承をとれや」  面倒くさそうに言ったら、不可解な顔で振り返る。  「いいん?」  その意味がわからなかった。    「もう会わへんからかまわん。でもお前、ソイツの挿れたら二度とお前とはせんぞ」  それは言っておく。  「じゃあ挿れるんでええ」  ソレは笑った。  いつもの冷酷な笑いだ。    「無理強いは・・・」  言いかけるのを途中でさえぎられる。  「無理やりはせえへんし、お前に二度と近づかないようにしておく」   ソレは言った。    都合がいい。    ソレのしたいようにさせることにした。  隣りのバスルームから、少年のすすり泣く声とソレの笑い声が聞こえたが気にせず裸のまま、彼のことを考えた。    やはり代わりの肉では・・・。  いつか、いつか、彼を抱く。                                      

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