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第9話
敵になった人間がどうなるかを見せつけるのに、ソレは丁度良かった。
顔を傷つけられた少年と、美しい上級生の話は少しは話題になったが、顔を傷つけられた少年よりも、その後上級生がどうなったのかが話題になった。
彼のことは忘れ去られる。
それは望み通りのことだった。
あの人が手をだそうだとしたヤツに嫉妬して、顔をグシャグシャにしたらしいで。
その結果、罰として奴隷にされとるらしいで。
裸で首輪つけさせられて、あの人の命令なら誰とでもさせられてるって。
まあ、噂だ。
裸で鎖にも繋いでないし、誰かに抱かせたりもしてない。
もちろん暴力も振るって無い。
だが、奴隷にしたのは本当だった。
もう、ソレに人生はない。
ソレに靴や性器を人前で舐めさせる姿を見せつければ、誰も逆らおうとはしなくなった。
どうなるかを教える良い見本だ。
ゲームは続く。
下らない。
だから思いついた。
世界ごとゲームを壊してやろうかと。
世界を壊すゲームを始めることにしたのだった。
思想を選んだ。
世界を壊すのにいちばん良かった。
両親や跡取りとして期待しているもの達には、まずここから行くことを説明しておいた。
思想家として有名になってから、政界に出る。
その方がいい、と。
半信半疑だったが、認めさせた。
彼らに教えておいた通りに計画は進行している。
男は今、カリスマ的な人気を誇る。
今、選挙に出たら親の地盤などなくても当選は確実だ。
思想に共鳴するものは政界にも多い。
これは、親からの力も合わせたならば、新しい権力を作れる。
でも誰も知らない。
男は作り出している。
世界を壊すキーワードを。
ある状況が来た時、男の本を読んだりその思想をしっている人間は暴れ始める。
自ら望んで世界を壊し始める。
丁寧に丁寧に言葉を埋め込んだ。
少しでもゲームで勝つことを目指し、日々努力しているヤツ程この言葉が埋め込まれていくだろう。
それは時限爆弾で、いつか爆発する。
それは思想に共鳴する政治家達もそうなるはずだ。
そして世界は混乱する。
その時、初めて男は上に立つべく動く。
全ての権力を握るために。
さて、それがどういう結果になるのか。
それは男にもわからなかった。
男はただ壊したいだけ。
面白いから。
「父親が亡くなったそうですよ」
秘書が、言った。
今はほぼ彼の専任の秘書だ。
来年選挙に出ることは秘密裏に決まっている。
そっとそれだけを耳打ちした。
何も言わなかった。
ただ、秘書の危険さは覚えておく。
必要なら、消さなければならない。
この男だけは気付いていた。
男が彼の父親が死ぬのを待っていたことを。
だから、すぐには行かなかった。
待ったのだ。
「あれは勘違いだったのか」
と思わせるために。
会いたくて会いたくて叫びそうになっても。
上手く工作した。
秘書にもソレにも、誰にも気付かれぬように。
そして、ずっとずっと行くことを夢に見ていた町へ向かった。
彼がいる町。
彼に会える。
会える。
会いたかった。
列車の中で・・・なんども震える身体をおさえられなかった。
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