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第11話

 愛してる  そう言ったのはどちらだったのか。    男は微笑む。     彼はすやすや寝ていた。      いや、気を失っているのだ。  その間に風呂に運んで綺麗に身体を洗い、ベッドのシーツやパットを取り替えた。  そんなことはしたことがなかった。  生まれて初めて台所で料理した。  彼が昔好きだと行っていた玉子焼きに挑戦したが、何かわからないモノになった。    それでも、口元に運べば食べてくれて、嬉しかった。  「なんでか美味いわ」  と笑ってくれた。  思わず浮かれて、もう少し作ろうかと聞いたなら、真顔で拒否はされたけれど。  でも時間は来ていた。  行かないと。  行かないと。  誰かが気付いてしまう前に。       消えないと。   消えないと。  愛してることが誰かにバレる前に。  もう二度と彼には関わらない。  彼のために。  でも全て覚えている。  覚えている。  忘れない。  一生分の愛はここにある。  彼の深く傷ついているがゆえに、一番美しい側にキスをした。  なんて愛しい顔。  彼に名刺を渡した。  秘書のモノだ。  何かあった時用に。  秘書だけは彼を知っている。    名前を言えば、全てを察するだろう。  あの男は消せない。  もう何があっても消せない。  彼を救うために残す。  仕方ない。  男はその事実を受け入れた。  そして、世界を壊すつもりであることを彼だけに教えた。  まだ誰も知らないことを。  彼は何もいわなかった  駄目だとも  良いとも。  ただもう会えないのかと泣いた男に優しく答えた。  「そやね」  それはお互いに解っていた  「早よ行き、暗くなる前に」  出ていけない男を促す声はとても優しかった。  「お前だけやから。寝たんは。これからも」  小さな声に泣きそうになった。  彼は一生分のセックスにしてくれたのだ。  この1日を。  それがそれがそれが。  浅ましいまでに嫉妬深い自分には、独占欲の塊である自分にはどれほど嬉しいことなのか、彼にはわからないだろう。  俺だけのものや。  振り返らなかった。    全部記憶しているから。  でも辛くて、長い道を泣きながら歩いた。  そして、駅前に立っていたのは・・・秘書だった。  驚きはしなかった。    「終わりましたか」  その声に涙を手で拭った。  涙は止まった。  「ああ」  頷いた。  開けられたドアから車に乗り込む。  「さあ、始めるで」   男は秘書に言った。  来年は選挙に出る。  父の地盤を受け継ぐ。  そして、ゲームを。  それしかすることがないのだから。  ゲームを始めよう。  終わらせるためだけに。    車は走り出した。    END        

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