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オマケ もう一つのanother story
ベッドに横たわる彼は溜息をつく。
あいつが去った部屋は、ひどく広く感じた。
ベッドサイドのテーブルに置いてあった携帯が鳴った。
フラフラの身体で腕を伸ばした。
番号は非通知だった。
「もしもし」
出たが、答えはない。
彼は笑った。
誰かは解っていた。
「アイツなら帰りました。もうここへは来うへんよ。だから安心してええんやで、先輩」
電話の向こうで息をのむ声。
「オレを殺すんはやめとき。どうせちかくまで来てはるんやろ。今ならアイツに気付かれんと帰れるで。帰りや先輩」
彼は優しく言った。
「オレを殺したら、アイツ今度はあんたを殺すで。そしたら・・・アイツ一人ぼっちになってまう」
彼の言葉をその人は聞いているのだろうか。
「オレが羨ましい?・・・でも、オレはアイツの側にはおられん。おるんはあんたや。オレはもうアイツには触れん。あんたは違う」
彼はこの人を恩人だと思っていた
あの顔から解放したくれたから。
それに、この人はアイツを愛してる。
間違いなく。
「オレをアイツが愛してるんはオレがオレやからや。でもあんたはどんなになっても、何になっても、アイツの側におろうとしてるやん。だからおれる。あんな男の隣りにおるにはそうしなあかん。でもオレはせん。だからアイツはオレを愛してる。でも、おるんはおれるんはあんたや。あんただけや」
電話の向こうからは声はしない。
多分すぐ近くにいて、今度こそ彼を殺すつもりなはずだ。
殺されてやっても良かった。
それはアイツの罪だから。
引き受けてやってもいい。
でも、それでは、アイツが一人になってしまう。
「・・・アイツを一人にせんといて?」
彼は頼んだ。
愛する人のことを。
他に頼める人はいなかった。
電話は切れた。
そして、誰も家に来ることはなかった。
END
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