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第6話

初めての家庭教師の生徒である渚君は、中学3年生の可愛い子だった。 見た感じミニチュアダックスフンドみたいな感じの子で、比較的寡黙だが真面目で良い生徒だった。だから、教授から話が来た時、今まで僕の前にも2人程家庭教師が着いたけど、直ぐにクビになったと聞いて来た。 家庭教師になって早1ヶ月。 クビになる気配も無く、普通に授業をしている。 2つ上にお兄さんが居るらしいが、部活で忙しいらしく会ったことが無かった。 渚君の話では、容姿端麗、スポーツ万能のムカつく奴という話。 兄弟の仲が悪いのかな?と考えながらも、家庭の話に踏み見込むのは止めておいた。 授業の最中、スマホにLINEが入る。 丁度問題を解いている最中だったので、渚君が 「見て良いですよ」 と声を掛けてくれて、ちょっと内容を見てみた。 相手は小関さんで 『出張から戻った。いつ会える?』 という内容だった。 (そっか…もう1ヶ月が経ってたんだ) 渚君の家庭教師を受けてから、毎日がなんだかんだと過ぎてしまっていた。 「恋人ですか?」 ぽつりを聞かれて 「え?何で?」 慌ててスマホを胸ポケットに押し込み、笑顔を作る。 「なんとなく…、嬉しそうだったから…」 ぽつりと言われて、思わず顔をつねる。 すると渚君は『プっ』っと吹き出して笑い出すと 「先生って面白いですよね」 って言われてしまった。 「僕を面白いなんて言うのは、渚君くらいだよ」 苦笑いする僕に、渚君はキョトンとした顔をして笑い出した。 「それより、早く返事して上げたら?」 胸ポケットに入れたスマホを指差して言われ、僕は渋々を装って返信する。 『今、バイト。19時に終わる』 って返信すると、直ぐに返信が届く。 『バイト先に迎えに行く』 の返信を見て、住所知らねぇだろ!って突っ込みを心の中で入れながらスマホを胸ポケットに戻した。 ニヤニヤした顔をする渚君の額にデコピンをすると 「問題は解けたの?見せて」 ってノートを奪う。 「あ!まだ!」 慌ててノートを取り返す渚君に 「じゃあ、さっさと問題を解く」 そう言って椅子に座り直したその時だった。 「な〜ぎ〜さ〜!」 部屋のドアが荒々しく開き、後ろから抱き締められた。 驚いて見上げると、生意気そうな光を宿した綺麗な切れ長の目と目が合う。 「あれ?」 その人物は僕の顔を見て一瞬固まる。 そして慌てて僕を離して 「すみません!あれ?今日って…」 驚いた顔で隣の渚君を見た。 「兄貴…今日は家庭教師の日だよ」 呆れた顔をする渚君に、彼は僕に頭を下げて 「すみません。俺、渚の兄で海(かい)と言います。海と書いてかいと読みます」 明らかに作り笑顔で手を差し出され、僕も作り笑顔でその手を握って微笑む。 「初めまして。渚君の家庭教師をさせて頂いている相馬和哉です」 握手をすると、彼は僕の顔をジッと見つめて 「あの…何処かで会いませんでしたか?」 と訊いて来た。 「いえ、初めて…です」 初めてと答え掛けて、思い出した。 あの日…小関さんとラブホから出て来た時にすれ違った高校生だ。 (やっば〜!) 心の中で呟きながら、満面の笑みを浮かべていると、彼はジッと僕の顔を見て考えている。 「兄貴、勉強の邪魔!」 そんな僕達の間に入り込み、渚君が叫んだ。 強引に彼を部屋から追い出し、渚君が僕に振り向いた。 「すみません!兄貴が凄い失礼な事をして」 謝る渚君に、僕はハッとして 「あ…いや、大丈夫」 と答えた後、僕は渚君に伝える事にした。 「渚君、僕はクビになるかもしれない…」 不思議そうな顔をする渚君に、僕はお兄さんと出会った時の事を伝えた。

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