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第14話

「先生、いらっしゃい」 毎週火曜日と金曜日。 可愛い可愛い渚君の家庭教師の日は、気が重い。 インターフォンを鳴らし、渚君のお母さんが僕を招き入れる…筈が、いつしか玄関でお出迎えするのは爽やかなイケメンの笑顔になった。 「どうも」 僕は顔色を変えず、玄関に入り靴を脱ぐ。 「あら、先生。今日もよろしくお願い致しますね」 パタパタと小走りで渚君のお母さんが現れて、僕に笑顔を向ける。 「こんばんは。こちらこそ、よろしくお願い致します」 にっこり微笑んで一礼すると、階段を上る。 すると僕の後ろを、爽やかな笑顔を貼り付けた彼が着いて来る。 2階に上がり、向かい合わせのドアの渚君の部屋のドアノブに手を掛けようとすると、腰を引き寄せられて前の部屋へと強引に押し込められる。 ベッドに投げ込まれ、『ギシッ』と軋む音を立てて僕の上に覆い被さると 「何度言ったら覚えるんです?渚の部屋に行く前に、俺の部屋に来て下さいよ」 ギラリと鋭い光を宿し、彼が顎を掴む。 「ふざけるな!僕の生徒は渚君なんだから、きみの部屋に寄る必要は無い!」 僕の反論に 「必要は無い?無くは無いでしょう?恋人なんですから」 そう囁き、強引に唇を奪う。 「んぅ…!」 彼の背中を叩き必死に抵抗すると、服の上から胸の突起をつまみ上げられる。 「んぅ!……んっ!」 くぐもった声が上がり、身体がびくんっと跳ね上がる。 舌を絡め取られ、全てを奪い尽くすような激しいキス。 上顎を舐められて、思わず縋り付くように彼の背中を握り締める。 舌を彼の前歯で甘噛みされて、『ジュっ』と吸い上げられながら舌先を彼の舌で舐められ、散々口内を侵されて唇が離れた。 荒い呼吸で睨み上げると 「あなたが素直に従えば、軽いキスだけで解放しますよ」 にっこり微笑んでそう言うと、僕の両手を掴んでベッドから起こすとぎゅっと抱き締めた。 肩に額を当てて、首筋に鼻先を当てられて 「くすぐったい!」 って顔を引き剥がすと、彼は悲しそうな笑顔を一瞬浮かべて僕の頬に触れた。 そして、軽く触れるだけのキスを落とすと 「お時間を取らせてすみませんでした。」 そう言って、ドアを開けて僕を解放した。 (何だったんだ?) 小関さんもそうだ。 みんな、僕を悲しそうな笑顔で見つめる。 首を傾げながら、渚君の部屋のドアをノックしてから開ける。 「先生!遅かったね、大丈夫?兄貴に絡まれてない?」 心配そうな顔で渚君が聞いてきた。 「大丈夫だよ。分からない問題があるからって、捕まっちゃったんだ」 苦笑いを浮かべて答えた僕に 「えぇ!先生、断って良いんだよ!兄貴の奴!」 渚君はプリプリ怒り出して 「母さんに、兄さんが先生に絡まないように注意してもらうね!」 って言い出した。 それはそれでめんどくさい事になりそうなので、僕はにっこり微笑んで 「大丈夫だよ。それより、授業を始めようか」 そう言って、教材を鞄から取り出して授業を始めた。

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