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第15話

「それじゃあ、今日はこれで」 授業を終え、階段を渚君と一緒に降りて行くと 「先生、駅まで一緒なので送りますよ」 そう言って、彼がジャケットを羽織りながら玄関に来る。 「あ、嫌…大丈夫です。」 作り笑顔を浮かべて言うと 「俺、友達の家に行くついでなんで」 と、彼も爽やかな作り笑顔を浮かべて、隣で靴をはく。 「お兄ちゃん、遅くならないようにね」 「分かってるよ、母さん」 優しい笑顔を浮かべ、玄関を開けると 「じゃあ、先生。行きましょう」 って、声を掛けて歩き出す。 「じゃあ、又、金曜日ね」 僕が渚君にそう言って、ドアを開けて待つ彼に続いて玄関を出た。 『バタン』 とドアが閉まると 「さ、行きましょう。」 そう言って、彼はゆっくりと歩き出す。 電車に乗り、僕のアパートに着くと、彼は玄関に入るなり後ろから抱き締めてくる。 シャツをたくし上げ、服の中に手を入れて身体中を撫で回し、胸元の突起に指で触れながら、片手で僕のベルトを外す。 「あっ……」 胸を刺激され声が漏れると、後ろから強引にキスをされる。 僕は応えるように、背後から抱き締める彼の髪の毛に手を差し込みキスを受け止める。 ガチャガチャとベルトを外す音が響き、ズボンの留め具を外され、ファスナーを下げると、下着の中に手を差し込まれて前を握られた。 「あっ…」 やわやわと優しく揉まれ、その腕に空いている自分の腕を絡めて小さく喘ぐ。 臀部に当たる彼の熱を持ち始めたモノを刺激するように腰を揺らすと、彼は腰を抱き寄せて熱く重量を増している楔を布越しに、彼を受け入れる場所に擦り付ける。 「やぁ……」 身体を震わせて喘ぎ 「ベッド……で…してぇ……」 甘えるように耳元で囁くと、靴を脱いだ僕を抱き上げ、ベッドへと運ぶ。 「さっきとは、随分違う反応ですね」 ベッドにゆっくりと下ろされ、彼は上着を脱ぎ捨てながらベッドに片膝を沈める。 「さっき?」 自分のシャツを脱ぎながら小首を傾げると 「俺の部屋ですよ」 そういいながら、上半身だけ脱いだ彼が僕に覆い被さる。 「当たり前だろう。先生なんだから…」 小さく笑うと 「公私混同する程、俺に夢中になってよ…」 僕の両頬を包み込み、キスを落としながらそう言われる。 「じゃあ…お前が僕を夢中にさせろよ…」 そう答える僕に 「あなたの夢中スイッチ、毎日、こうして探してるでしょう?」 そう言いながら、身体中にキスの雨を降らす。 「あっ…」 乳首を吸われ彼の頭を掻き抱くと、それが合図のように激しくお互いを貪り合う。 ………あの日から、海は毎日、家に通うようになった。 レポートが遅くなり、帰りが遅くても玄関前で待たれているから、合鍵を渡した。 毎日、毎日、僕を抱き、律儀に平日は1回だけで帰宅する。 最初は嫌々だったこの関係も、いつしか生活の1部になっていた。 ……家庭教師のバイト前のあれさえなければ、海は基本的に僕の嫌がる事はしないので、セフレとしては最高である。 でも、恋人にこだわる彼は、四六時中365日自分だけを求めて欲しいらしい。 どこの重い女だよ! 割り切った関係を求める僕と、全てを欲しいと願う海。 その関係は、平行線を辿っていた。 『和哉、愛してる』 そう囁いて、本心はただのセフレだった先輩との関係。 触れ合う事は1度も無かったけど、僕を守り続けた先生の想い。 先生は、1度も僕を抱かなかった。 本当に好きな場合、手出し出来ないのかな? じゃあ、身体から始まったこの関係は、やっぱりセフレなのかな? いくら考えても、答えの出ない迷路のようだ。 「和哉さん、愛しています」 海はいつも口にする。 果てる時、いつも僕の名前を呼びながら、泣いているように「愛してる」と叫ぶ。 海が愛してるのは、この身体。 僕自身じゃない。 若いから、肉体の欲を愛情だと勘違いしているだけ。 「何を考えてるの?」 海が僕の頬に触れて、瞳を覗き込む。 「なにも…」 そう答えながら、綺麗に整った海の顔を見上げる。下手なアイドルより整った、綺麗な顔が汗で濡れている。 何故、こんなに綺麗な人が僕に固執するのか分からない。 多分、同年代の女の子なら、彼のいつもの爽やかな笑顔にイチコロだろう。 何故、好き好んで5つも年上の僕を相手にしているのか理解出来ない。 そんな事を考えていると、顎を強引に掴まれて 「誰を思ってるの?」 と、一瞬、悲しそうに瞳を揺らすと、『ズン』っと最奥を穿たれた。 「……はぁっ!」 突然の衝撃に仰け反ると、見上げた彼の瞳は凶悪な色に染まっていた。 分からない……。 海が分からない……。 優しく囁いたかと思えば、こうしてむちゃくちゃに僕を抱く。 この関係が始まった頃 『渚に手を出したいと思えない位、毎日、毎日、貴方を抱き潰して上げますよ』 とんでもない言葉を発しているとは思えない、爽やかな笑顔で言われた事がある。 あれはどういう意味だったんだろう? 身体を揺さぶられ、激しい刺激に目眩が起る。 与えられる激しい快楽に、僕は思考を手放した。 「和哉さん…和哉さん…、俺を…俺だけを見てください!」 叩き付けられるように精を吐き出され、僕は海の言葉の意味を考える事も、記憶に留める事も拒否をして意識を手放した。

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