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第18話

煙草の香りに目を開けると、小関さんが隣で煙草を吸っていた。 「悪い、起こしたか?」 小関さんの声に首を横に振る。  あの後、小関さんがバス停まで迎えに来てくれて、小関さんの家に連れて来てくれた。 泣きじゃくる僕を、落ち着くまで抱き締めてくれていた。 お風呂を貸してくれて、部屋着も寝る部屋も用意してくれた。 でも、1人になるのが怖かった。 小関さんが眠る部屋に行き、衣類を脱いでベッドに潜り込む。 「お前、何して…」 驚く小関さんの唇を塞ぎ 「1人にしないで…」 涙を流しながら呟くと、小関さんは黙って僕を抱き寄せてベッドに押し倒した。 「大丈夫か?」 頭を撫でられ小さく笑う。 「小関さんの手、久し振り」 僕が呟くと、小関さんは僕の頬に触れて 「何があった?」 そう訊いて来た。 僕は口を開き掛けて、涙が出そうになって口を閉じる。 「まぁ…言いたくないなら、無理に言わなくて良い」 小関さんはそう言って僕の頭を撫でながら 「なぁ…和哉。一緒に暮らさないか?」 そう言い出した。 「え?」 驚いて顔を上げると 「俺なら、お前にそんな顔をさせない」 と言われる。 「でも…」 俯いて呟くと 「晃の身代わりでも構わない」 って言われた。 その時に気付いてしまった。 海に振り回されている間、先生の事をすっかり忘れていたという事を…。 これは…罰だ 僕なんかの事を命を懸けて守ってくれた先生を、たとえ少しの間でも忘れるなんて…。 「僕なんかで良いの?」 ぽつりと呟くと、小関さんは驚いた顔をしてから 「バ〜カ、お前が良いんだよ」 そう言って頭をくしゃくしゃと撫でる。 「ずっと…連絡しなかったのに…」 僕がそう言うと、小関さんは優しく微笑んで 「お前が他の奴と幸せになるなら、俺はいつだって身を引くつもりだったから気にするな」 って呟いた。 「え!」 驚いて起き上がると、煙草を揉み消して僕の腕を引き寄せ 「もう、譲る気ねぇけどな…」 そう言って唇を塞ぐと、ベッドに押し倒された。 身体を這う手も…唇も…、最奥を穿つ灼熱の楔も…何年も馴染んだ肌の筈なのに、違和感を感じてしまう。 『和哉さん』 いつも激しく求めて来るくせに、泣いているように僕を抱いていた彼。 ずっと…身体だけが目的なんだと思っていた彼が、やっと本音を見せてくれたと思ったのに…。 やっぱり僕の噂を聞いて嫌になったの? 閉じた瞼から涙が流れる。 「和哉」 呼ばれて目を開けた時、汗を滴らせた綺麗な彼の顔を思い出してしまって涙が溢れる。 (いつの間に…こんなに好きになってたんだろう…) ぼんやりと考えていると、小関さんが僕の頬に触れて 「和哉、お前を抱いてるのは誰だ?」 そう囁かれた。 「小関…さ…ん…?」 驚いて瞬きをすると 「これから、小関さん呼び禁止な」 って言われる。 「え?」 「俺の名前は?」 そう言われて視線を逸らす。 「和哉、呼んで…」 甘えるように頬に頬をすり寄せられて言われ、思わず笑ってしまう。 「もう…、仕方無いな〜」 クスクス笑っていると 「和哉…愛してるよ」 そう囁かれて唇にキスをされる。 僕は首に手を回し 「僕も…、政義さん」 と答えて微笑んだ。 海への気持ちは、封印しようと決めた。 あの日、自分の気持ちに気付かなければ良かった。 あんな笑顔、見なければ良かった。 抱き締める肌の温もりも、僕に触れる手の感触も…全て忘れよう。 『和哉さん』 切羽詰まったように呼ぶ声 『和哉さん…和哉さん…、俺を…俺だけを見てください!』 泣きそうな声で最奥を穿ち、果てる声 全て忘れるんだ もう、何もかも忘れてしまえば良い… 「和哉!」 激しく揺すられ、強く2、3回腰を打ちつけられて僕の身体も全身が痙攣する。 「まさ…よ…し…さ……っ!」 ガクガクと震え、必死に背中に回した手で爪を立てる。 「くっ…」 と息を飲む声と同時に、最奥で爆ぜる感覚を身体で受け止める。 ドサっと小関さんの身体が覆いかぶさり、僕の身体を抱き締める。 呼吸を整えながら、僕はそのままゆっくりと目を閉じた。

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