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第35話

こんな人が、授業が務まるのか?と首を傾げたが、実際受けてみて、授業は面白かった。 数学がどう生まれて、何故、俺達にとって小難しい計算式を学ぶ事が必要なのか? また、世界各国の算数の勉強法を解かせたり、数字から始まる世界の広がりを教えてくれた。 数学の話をしているその人の目はキラキラ輝いていて、普段とのギャップに驚いた。 すぐに生徒の人気者になるが、本人が人嫌いみたいで直ぐに逃げられてしまうらしい。 いつしか生徒の間で「ペルシャ先生」と呼ばれていた。 猫のように気まぐれで、自分の興味のある事以外には無関心。 何処か陰をもった人を寄せ付けないミステリアスさが素敵!っと、女子達が騒いていた。 (ミステリアスね…) 昼休みになり、俺は旧校舎の屋上へ向かう。 「一条、飯食わないの?」 仲良くしている奴等に声を掛けられ 「今日は良いや」 って笑顔で答えると、旧校舎へと歩き出す。 俺達が使っている新校舎から歩いて5分くらいの所に、教職員が主に使っている旧校舎がある。 4階建ての建物を登り、古いドアノブを開ける。 入り口入って右にある梯子を登り、入り口のちょうど真上の場所で弁当を広げた。 時々、息が詰まる。 本音を全て笑顔で隠し、いつしかどれが自分の笑顔なのかがわからなくなっていた。 1人になりたい時は、此処でぼんやりと過ごすのが日課になっていた。 弁当を食べ終え、ゴロンと横になって空を見つめていた。 何処までも広がる真っ青な空。 ポカポカと温かい日差しに目を閉じた時だった。 ドアが開く音がして 「あれ?いない。やっぱり見間違いだったんじゃね〜の?」 と、話す声が聞こえた。 「マジ?じゃあ、戻るか」 「それにしても、一条は良いよな〜。 俺ら、なんであいつに告白する女子の為に、あいつを探さなくちゃなんね〜んだよ」 文句を言う声に、面倒に巻き込まれないようにそのまま寝転んだ状態で空を見上げる。 「大体さ、イケメンで頭が良くてスポーツ万能?神様って本当にずるいよな!」 「って言うかさ。あいついっつも爽やかな笑顔浮かべて、『俺、一条様ですが何か?』って顔しててマジムカつく!」 「つうかさ、一条の奴。女教師に色目使ってテストの問題教えてもらってるって聞いたぜ」 「あ!俺も聞いた。あとさ、ホモって噂の生物のホモ尾ともやってるんだろ?一条、マジキモい」 「じゃなきゃ、中学からずっと学年トップとか有りえねぇだろ!」 心ない中傷が吐き出される屋上で、折角、気晴らしに来たのに…って溜息を吐いた時だった。 「くだらない」 って声が聞こえた。 すると 「げ!先生、居たの?」 慌てた声に 「ずっとそこで寝てたけど?それより、僕の貴重な昼寝の時間に、反吐が出るような話を聞かせないでくれないかな?」 冷めた声が響く。 「反吐って!」 イラついた声を出した奴に 「そもそも、その一条君とやらが誰だか知らないけど、中学からずっと学年トップを取れるってさ、本人が努力しなくちゃ取れないよ。お前ら、そんな常識も分からないくらい、脳みそ腐ってんの?」 怖いくらいに覚めた声がして 「お前ら、その校章の色からして2年だろ? 学年主任に話するから、名前とクラスを教えろ」 そう言った。 すると 「やべぇ。誰が教えるか!ば〜か!」 そう言い残し、バタバタと足音が消えて行った。 「ったく…胸糞悪い」 吐き出すように呟くと、静かになった。 俺は誰も居なくなったと思って起き上がり、下を見た。 すると、空を見上げるその人が見えた。 風が髪の毛と白衣を揺らし、何も映さない瞳が空をぼんやりと眺めていた。 その光景があまりにも綺麗で、俺はしばらく見惚れていた。 すると瞳から一筋の涙が流れ、唇が動いた。 なんて言っているのか分からず、思わずガン見していると、涙を拭って視線を落としたその人物と目が合ってしまった。

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