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第56話

小関弁護士はそのまま真っ直ぐ俺を見て 「お前だろ?和哉の今の男」 と、ポツリと言われる、 そして小さく笑うと 「成る程な。いかにも優等生タイプのイケメン君か。何?女に飽きて和哉に手を出したのか?」 そう言われてカチンと来た。 「違います!」 と叫ぶと 「詳しくは聞いてないが、お前、どうやってあの和哉を口説いた?あいつ、人に対して警戒心強いのに…」 そう言われて言葉が出て来ない。 黙っていると 「言えない?」 と言って、俺の心の中を見透かすような瞳でジッと俺を見ている。 「じゃあ、俺から言おうか?あいつの弱みかなんかを握って、関係を無理矢理作った?違うか?」 そう言われて、違うと言いたかった。 でも、果たしてそうなのか自信が無い。 「反論出来ないわけね」 溜息を吐くと、小関弁護士は 「あいつの最初の男、お前みたいなタイプだったんだよ。いかにも優等生?って奴。しかし、その面の皮を剥いでみたら、とんでもない食わせ者。あいつを自分の性の吐口にしやがった。大方、お前もそんな所だろう?」 そう言うと、灰皿に置いたタバコの火を揉み消した。 「で、そのお前がその記事を読んで、ヒーローにでもなってあいつを自分の手中に入れようって所か?」 そこまで言うと、ゾッとするような目で 「大人を舐めんな!」 って、俺を睨み付けた。 俺は拳を握り締めて 「確かに…始まりは売り言葉に買い言葉から関係が始まって、強引に関係を続けました。でも、俺は本当に和哉さんが好きなんです」 そう必死に訴えた。 「あの人に笑って欲しくて、色々考えました。でも、まさか大学であんな状況になっているなんて…」 と呟くと 「本人が放置してるんだ。放っておけ」 小関弁護士がそう言い放った。 俺はその態度に納得が行かなくて 「なんでそんな冷たい事が言えるんですか!あなた、和哉さんと付き合っていたんですよね?」 って叫んでいた。 すると 「だから?」 と、たった一言そう返して来たのだ。 俺は頭に来て 「…もう、結構です。1人でなんとかします。あなたに相談しようと思った俺がバカでした」 そう言って、その場を去ろうと立ち上がった。 すると小関弁護士は冷めた目で 「お前みたいな、あいつを地獄に叩き落とした最初の男みたいな奴の話を、誰が鵜呑みに出来る?」 と言われた。 「俺は!」 「俺からしたら…お前のやった事は、和哉をあんな風にした最初の男と同じだよ」 そう言われて、冷や水を浴びせられた気分になった。 何も言い返せなくなって、俺は逃げるようにその場を去った。 情けなかった。 悔しかった。 いくら名前を覚えてもらえないからと言って、あんな風に始めるんじゃなかった。 自分が憎かった。 その後、どうやって帰宅したのか覚えていない。 ただ覚えているのは、自分が情け無くて…。 和哉さんを苦しめた男と、同じことをしていたと思われるような付き合い方しか出来なかった自分を恥じた。 どんなに悔やんでも、取り返しが付かない。 俺は荒れて、部屋中の物を叩き付けた。 後悔と懺悔の念に、涙が止まらなかった。 全て投げ付けた後、俺は荒れ果てた部屋の中で1人泣いた。 ただ、振り向いて欲しかった。 俺を認識して欲しかった。 …愛して欲しかった。 間違って始めた関係は、修正する事が出来ないのかもしれないと、俺は絶望の中に立たされていた。

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