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第57話

「海!ちょっと良いか?」 和哉さんと離れている間、俺は大学の噂の出処だけでも掴みたくて、学校が終わると図書館に行ってネットで調べまくっていた。 そんな日々が続いていた頃、悠斗に腕を掴まれる。 「なに?」 一分一秒も無駄にしたくなくて、悠斗に呼び止められて少しイライラしていた。 「お前、大学見学に行ってからおかしいぞ!」 そう言われて 「ごめん、今度話す」 と言って帰ろうとすると 「良いから、ちょっと顔かせ!」 って言われて、俺は屋上に引き摺られて行った。 ドアを開けて屋上に入った瞬間、あの日の和哉さんを思い出す。 まるで青空に溶けて消えそうな儚い姿。 何かを呟いて、涙を流していたっけ…。 今なら、なんて呟いていたのかは分かる。 『晃さん…』 そう呟いていたんだ。 風に揺れる髪の毛。 白い肌に、濡れた唇。 漆黒の硝子玉のような、何も映さない瞳。 思い出して、俺の瞳から涙が一筋流れる。 怒った顔で振り向いた悠斗が、俺の顔を見て驚いた顔で 「お前…どうしたんだよ!何かあるなら相談しろよ!」 そう言われた。 俺は和哉さんとの関係を隠すつもりも無ければ、コソコソするつもりも無い。 でも、無闇な言葉が又、和哉さんを追い詰める結果にならないのかが不安だった。 黙っている俺に悠斗が 「そんなに、俺は信用出来ないか?」 と呟いた。 「俺は、お前の事を親友だと思ってたけど、お前は違うのかよ!」 そう叫ばれて 「俺だけの問題なら、幾らだってお前に相談してるよ!」 と答えた。 すると悠斗は、俺の顔を真っ直ぐに見て 「お前の好きな人って、大学見学の時にお前が連れ帰った人なんだろう?」 って言い切った。 驚いて悠斗の顔を見ると 「ただの弟の家庭教師にしては、お前のキレ方が尋常じゃなかったし。第一、相手のお前を見る目が赤の他人じゃなかった」 そう言ってから 「明らかに、お前に好意を持っている目だった」 と言われた。 「いやいや!あの人は、俺の事なんか全然」 苦笑いすると、悠斗は呆れた顔をして 「お前……本当に、残念なイケメンだな。」 そう言って俺の額にデコピンした。 「痛ぇ!」 叫んだ俺に 「D組の相田があの先輩と仲が良いから、色々聞いてみたらどうだ?恐らく、あの大学の裏サイト位の情報はくれる筈だから」 そう言った。 「裏サイト?」 「そう。どうやら、そこで色々な情報とかを交換しているみたいだな。まぁ、詳しくはお前が聞けよ。俺らじゃ、教えてくれねぇからさ」 って言われた。 「いや、俺が訊いた所で答えるかどうか…」 そう言いかけると 「お前だから、答えるんだろうが!」 と言われて、溜息を吐く。

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