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第58話

「まぁ、どうするのかは、お前が決めろ」 悠斗にそう言われて俺は苦笑いをすると 「その子しか分からないんだろ?」 そう言って、悠斗の肩を軽く叩いて 「ありがとう」 ってお礼を言った。 すると 「二度目はねぇからな!」 と言われる。 「もう、俺に隠し事すんじゃねぇぞ!」 悠斗はそう言って、俺の頭にチョップする。 「悠斗、お前…良いやつだな」 俺がそう呟くと、悠斗は俺の首に手を回し 「今更かよ!」 って笑った。 俺は折角、悠斗が集めてくれた情報を無駄にしたくないので、俺はD組の相田に会いに行った。 「相田〜、A組の一条が呼んでる〜」 D組に行って相田という女子を呼んでもらった。 ……もらったら、何と俺が何度か告白されて、振った人だった。 「え〜、何?一条君」 顔は告白されるんだと思い込んだ、期待に満ちた顔をしている。 (あ〜帰りたい) うんざりした顔をしたいのをグッと堪え、笑顔で 「呼び出してごめんね。ちょっと、聞きたいことがあるんだけど良い?」 って訊ねた。 すると彼女は上目遣いで 「聞きたいこと?」 って。オウム返しをして来た。 小首を傾げて、可愛らしさをアピールしてる仕草がちょっと鼻に付く。 「此処じゃなんだから、ちょっと良いかな?」 そう言うと、彼女は満面の笑みを浮かべて頷く。 …で、何故、一緒に帰る事になったのかが良く分からない。 「一条君のお家って何処なの?」 そう訊かれて、家まで来る気か?ってうんざりする。少しでも気を抜くと、俺の腕に手を絡めようとしてくるから、その度に手を引き剥がす。 話題ものらりくらりと交わされ、中々、本題に入れない。 このままでは自宅に着いてしまうと、俺は途中で駅付近の公園へと進路を変える。 公園に着いて 「あのさ…ちゃんと話を聞く気ないなら、俺、もう此処で帰りたいんだけど」 そう切り出した。 すると相田は俺の顔をジッと見つめて 「そんなに唯ちゃん先輩が持ってるネタを知りたいんだ」 って呟いた。 「知って…」 そう言い掛けて、罠に嵌められたのに気付く。 「大崎から話は軽く聞いてたよ。唯ちゃん先輩に怒鳴ったんだってね〜。そっちの話も聞いた」 と言うと、俺の首に手を絡めて 「キスしてくれたら、唯ちゃん先輩の大学の裏アカウントのIDとパスワードを教えて上げる」 って言われた。 「悪いけど…」 そう言って身体を引き剥がそうとすると 「そんなに大事なわけ?弟さんのカテキョだっけ?本当は、一条君もその人のセフレだったりして。その人、男を手玉に取るのが上手いんでしょう?」 と、和哉さんを侮辱する言葉を言われてカチンとする。 俺は彼女の身体を引き剥がし 「それ以上、あの人を侮辱する言葉を言うなら、お前を一生許さない」 そう答えた。 「なんで弟のカテキョに、そんな入れ込んでるの?意味わかんない」 って言われて、このままだと和哉さんに余計な噂が広まるのが怖かった。 「あの人は…前の学校で俺に数学を教えてくれた人なんだよ。今の学校に編入したのも、あの人の言葉がきっかけだった。だから、恩返ししたいだけだ」 と答えると 「へぇ〜。でも、あの噂。その人の元カレからの情報だから、間違いないみたいだよ」 そう呟いた。 「え?」 「もっと詳しい話が聞きたい?」 そう言われて、俺の背中に手を回して胸に顔を埋めて来た。 「どうする?私はどっちでも良いけど?」 って、彼女が俺を見上げる。 どうするのか悩んでいると 「ねぇ、ちゃんと抱き締めてくれる?この紙が欲しいんでしょう?」 そう言って、彼女が自分の胸ポケットからメモを取り出した。 俺は和哉さんの元カレが誰なのか知らなかった。 仕方ないのか…と思って彼女の背中に手を回した瞬間だった。 『バサバサ』 って背後で何かが落ちる音がして、慌てて振り返った。 そこには、居る筈の無い和哉さんが真っ青な顔で立っていた。 「和哉さん…なんで?」 驚いた顔をして呟くと、和哉さんは泣き出しそうな笑顔を浮かべて 「バイバイ」 と言うと、その場から走り去った。 「悪い!その紙要らない!」 俺はそう言い残して、和哉さんを追い掛けた。 走って行った方角を探しても、既に姿が無い。 駅へと向かっても、和哉さんの姿は見当たらなかった。 「嘘だろ…」 呟いた俺の言葉だけが、夜の闇に吸い込まれて行った。

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